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【識者の眼】「ゼロピックスをめざして〜日々のウォーキング」中西信人

中西信人 (神戸大学大学院医学研究科外科系講座災害・救急医学分野特命助教)

登録日: 2025-02-20

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最近、キックボードなどボタン1つで移動できる乗り物が、海外の主要都市では見慣れたものになってきました。日本でも街角に配置してあるキックボードをみることがあります。キックボードだけではありません。自動で動き乗り物にもなるスーツケースもあります。バイクや車も1人1台の時代です。しかし、これらは私達の生活のためになっているのでしょうか。

厚生労働省は健康維持のために必要な1日の歩数について、成人男女の個人に対して1日あたり8000歩を推奨しています。一方で「国民健康・栄養調査(令和5年)」によると、日本人の1日平均歩数は、男性が6628歩、女性が5659歩です。これは、10年間で男女とも有意に減少しています。つまり、私たちは健康維持のために必要なほど歩けていないということになります。

その結果、糖尿病や高血圧などの生活習慣病となり、体力の低下、病気になった後に長期的な身体機能障害が続き、社会復帰への妨げとなっています。こういった長期的な身体機能障害はPICSと言われます。

PICSを防ぐためには、日頃からのウォーキングが重要です。ウォーキングは心筋梗塞や脳梗塞のリスクさえも低下させ、病気で死亡するリスクすら低下させることがわかっております1)

たとえば、乗り物で駅まで行くのをやめてウォーキングで行くことにすると、1日の通勤時間は30分増えるかもしれません。しかし、そのおかげで健康維持に必要なウォーキングを実施することができます。その結果、PICSになって何年もリハビリテーション病院に通わなくてもよいかもしれません。この30分という時間は、決して無駄な時間ではありません。

日頃からの健康維持は予防医学として病気にならないためだけでなく、病気になっても社会復帰するためにとても重要です。私は救急集中治療医として、交通事故や重症の感染症に罹患した患者の治療を日々行っています。そういった状態になったときに、日頃から健康を維持できている方は、社会復帰できる可能性が高くなることがわかっています。

世の中には便利といわれる乗り物がたくさんありますが、本当は不便な乗り物なのかもしれません。1日30分のウォーキングを無駄と言わずに、歩いて通勤してみるのはどうでしょうか。ゼロピックスへの戦いは既に始まっているのです。

【文献】

1) Hamaya R, et al:JAMA Intern Med. 2024;184(7):718-25.

中西信人(神戸大学大学院医学研究科外科系講座災害・救急医学分野特命助教)[救急医学][PICS][ゼロピックス]

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