□脊椎損傷単独では重篤となることは少ないが,その不安定性から脊髄損傷,特に頸髄損傷を合併すると機能障害や生命予後に大きな影響を与える。
□脊髄外傷部位は,最も可動性に富む頸髄が過半数を占め,受傷機転としては交通事故が43.7%,高所転落が28.9%,転倒が12.9%,スポーツが5.4%を占める。
□初期治療の目的は呼吸,循環の安定と脊柱の不安定性による二次損傷の予防である。脊柱を固定し,呼吸・循環が不安定な場合は,気道の確保,呼吸補助,静脈路確保,徐脈に対する硫酸アトロピンの投与を優先する。
□それらが安定した後,ステロイド大量療法,手術・牽引による整復・固定を考慮する。
□意識清明な場合は,受傷機転と局所の自発痛・圧痛,四肢のしびれ・麻痺の有無や程度を尋ね,既往に脊椎の変形や脊柱管の狭窄をきたすような疾患・変性がないかを確認する。
□呼吸運動は主に第3~5頸髄(C3~5)からの横隔神経に支配される横隔膜と,各胸髄からの肋間神経に支配される肋間筋により行われる。したがって,上位頸髄の損傷ではそのどちらも障害され,自発呼吸は停止し,下位頸髄~上位胸髄の損傷では肋間筋が障害され,横隔膜のみの呼吸(腹式呼吸)となる。
□循環では,心臓は第1~4胸髄(Th1~4)からの交感神経と延髄からの副交感神経(迷走神経)の二重支配を受けているため,上部胸髄より上位の脊髄損傷では交感神経の支配が断たれ,副交感神経優位となり徐脈となる。また,末梢血管は第1胸髄~第2腰髄(Th1~L2)の側柱からの交感神経の支配により収縮しているが,それより上位の脊髄損傷ではその支配が断たれ,末梢血管は拡張し血圧は低下する。これを,神経原性ショック(neurogenic shock)と呼ぶ。
□すべての知覚・運動機能が消失する完全型と,何らかの知覚・運動機能が温存される不完全型にわけられる。不完全型には,下肢に比べ上肢に強い運動麻痺と様々な感覚障害を特徴とする中心性脊髄損傷などがある。
□意識が清明な場合は,局所の自発痛,圧痛,運動時痛の有無を確認し,次に運動麻痺やしびれ,知覚の鈍麻を確認する。
□乳幼児や高齢者,飲酒者,意識障害のある場合等,正確な神経所見がとれない場合には脊椎の固定を継続し,画像診断を行う。
□脊髄の完全損傷では,その直後には一過性に損傷された脊髄レベル以下のすべての脊髄反射が一過性に消失し,弛緩性麻痺,感覚障害,腱反射消失となる。これを脊髄ショック(spinal shock)と呼ぶ。多くは数時間~数週間の間に徐々に回復する。また,膀胱直腸障害や自律神経症状として発汗消失や持続勃起が認められる。
□その後は脳からの制御がきかなくなり痙性となり,腱反射は亢進するが,知覚・運動障害は回復せず,筋は萎縮する。
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