□ガス中毒は,まずは疑わないことには治療が始まらない。疑うためには,傷病者発生の状況把握から始まる。
□ガス中毒の場合は,症候によって原因ガスのおおまかなあたりをつけながら治療を行う。
□一酸化炭素中毒・ガス中毒の多くは発症した状況により疑うことができる。たとえば,不完全燃焼が疑われる状況や火災では一酸化炭素中毒,トイレの掃除中やプールサイドにおいては塩素中毒などを疑う。
□これらは,疑わなければ診断にたどり着くのは困難であるとも言える。
□症状の持続時間は,ガスへの曝露時間,曝露したガスの濃度などによる。
□バイタルは,特に特異的な変化はみられない。
□診察においては,症状・徴候が気道系なのか,心血管系なのか,脳神経系なのかをみきわめることが重要である。
□疑わなければ診断にたどり着くのが難しい1)ことから,中毒物質をおおまかにグループ分けし,症状や徴候,病態生理から探る,トキシドローム2)という考え方がある。これはガス中毒の診断にも適応でき,大過ない対応をとることができる。表1に,ガス中毒に関係するトキシドロームを示した。
□刺激性ガストキシドロームは,水溶性の程度により3種類に分類される。高い水溶性を持つものとして,アンモニア,ホルムアルデヒド,塩酸,二酸化硫黄がある。塩素の水溶性は中等度であり,ホスゲン,二酸化窒素は水溶性が低い。
□主な標的器官・臓器は気道,呼吸である。水溶性が高いものほどより上気道に,水溶性が低いものほどより下気道に病変の主体がある。
□呼吸器系の初期症状は,灼熱感,鼻汁過多,上気道浮腫,咳,発声障害,吸気性喘鳴,喉頭痙攣であるが,これが進むと,肺水腫,低酸素血症,頻呼吸へと移行する。水溶性のあるガスの場合は目や鼻などの粘膜を刺激し,鼻水,流涙,結膜の炎症による眼痛が出る。
□窒息性トキシドロームは,作用形式から次の2つにわけられる。
□1つは,単純性窒息をきたすもので,二酸化炭素,メタン,プロパンが代表的な物質である。単純に空気中の酸素をこれらの気体が置換し,酸素濃度が下がるために窒息をきたす,窒息性物質である。
□もう1つは,全身性の化学性窒息性物質である。一酸化炭素,シアン化水素,硫化水素,アジ化水素がこれに含まれる。
□主な標的器官・臓器は循環器・中枢神経系である。
□循環器系において,頻脈,虚血性変化・心筋梗塞,心停止をきたす。亜硝酸塩,硝酸塩,アジ化物の場合は,血管拡張による頭痛,低血圧,反応性頻脈,失神,心筋虚血,末梢血管抵抗低下による分布性ショックをきたす。メトヘモグロビン形成性物質によるものでは,チアノーゼをきたす。
□中枢神経系の症状・徴候としては,頭痛,めまい,疲労感,錯乱,不穏,痙攣が挙げられる。高濃度の硫化水素の曝露ではノックダウンと呼ばれる急激な意識障害を起こす。
□コリン作動性トキシドロームは,コリンエステラーゼの阻害を起こす物質によって起こるトキシドロームである。ガスで代表的なものは,神経ガス(化学兵器)である。主な標的器官・臓器は中枢神経である。
□中枢神経系では,交感神経系,副交感神経系ともに刺激され,症状が出る。
□呼吸器系では,ムスカリン作用による鼻汁過多,気道分泌増加と気管支痙攣により頻呼吸となり,呼吸停止に至る。
□心循環器系では,交感神経系刺激症状としての頻脈性不整脈,高血圧が起こり,副交感神経系優位となれば徐脈となる。
□皮膚粘膜はムスカリン様症状による流涙,縮瞳となる。
□消化管症状として,腹痛,嘔気・嘔吐,下痢がみられる。
□炭化水素やハロゲン化炭化水素によるトキシドロームの主な標的器官・臓器は,循環器系と中枢神経である。
□循環器系では,頻脈性不整脈,心停止のほか,低酸素血症により頻脈,不整脈,虚血をきたす。
□中枢神経系に対しては,全身麻酔作用により昏睡し,死亡に至ることもある。
□呼吸器系症状としては,気道粘膜の刺激による気管支痙攣や喘鳴を起こす。ガソリンなど長鎖炭化水素の曝露では,化学肺炎を起こす。
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