□閉塞性動脈硬化症(arteriosclerosis obliterans:ASO)末梢動脈疾患(peripheral artery disease:PAD)は,頭蓋内の動脈と冠状動脈を除いた動脈,つまり頸動脈,鎖骨下動脈,腎動脈,四肢主幹動脈などに,慢性的経過において動脈硬化性狭窄,もしくは閉塞病変をきたす疾患である。下肢動脈であれば,結果として循環障害の症状(下肢疼痛冷感,しびれ感,壊死など)を呈する。
□食生活の欧米化による生活習慣病の増加に伴い,罹患率が増えており,冠動脈や脳血管疾患を高頻度に合併するため,予後も著しく不良である。
□診断上の要点は,①下肢虚血の評価,②他の動脈硬化性疾患の精査,③動脈硬化の進展危険因子の評価,などである。
□急性下肢虚血症例は,病態や治療法が異なるので,詳細は他書にゆずる。
□下肢虚血の代表的な臨床症状は間欠性跛行であり,運動時に出現し,安静時に寛解する再現性のある下肢痛である。
□腸骨動脈の病変では,股関節部,殿部,大腿部の脱力が起こる。また,大腿,膝窩,脛骨動脈の病変では腓腹筋の痙攣痛が認められる。
□下肢虚血が重症化すれば,安静時痛,潰瘍,壊死が認められるようになる。重症下肢虚血と呼ぶ(critical limb ischemia:CLI)。
□臨床症状からみた重症度分類にFontaine分類(表1)やRutherford分類(表2)がある。
□聴診/触診:聴診では,総大腿動脈や膝窩動脈での雑音が診断に有用な場合がある。動脈雑音を認めた場合には,聴診付近の動脈に狭窄もしくは閉塞病変の合併を認めることが多い。
□脈圧の触診は,病変の病変局在の診断に重要である。必ず左右同時に触診する。総大腿動脈での触知低下は腸骨動脈病変の存在を疑う。総大腿動脈の触知を認めるにもかかわらず,膝窩動脈での触知低下が認められる症例では,大腿膝窩動脈病変の存在を疑う(図1)。
□両側Ankle Brachial Index(ABI)が同程度に低下を認め,総大腿動脈の同程度の触知低下が認められる場合には,大動脈病変や両側腸骨動脈病変などの合併を疑う(図1)。
□ABI:足関節収縮期血圧/上腕収縮期血圧で求められ,最も簡易で感度・特異度の高い(感度:95%,特異度:100%)検査方法である。測定値が0.9以下であれば,積極的に下肢動脈病変の存在を疑う。しかしながら,透析患者などの血管に強い石灰化を合併した鉛管状血管では,測定高値となり偽陰性になることがある。測定値が正常値を示しても,下肢病変を合併することもあり,症状を有する症例では追加検査が必要となる。またABIが0.9以下では,心血管系死亡率リスクが3~6倍に増大する。
□血管エコー(vascular echo)検査:非侵襲的でスクリーニング性に優れ,局所の詳細な観察も可能である。末梢血管領域の検査では,新規病変評価および治療後の再狭窄病変評価において最も一般的な検査方法である。具体的には収縮期最高血流速度による血管径狭窄率の推定や血流パターンにより狭窄部位の検索が可能である。カテーテル治療後の遠隔期には,収縮期最高血流速度比が術直後の2.0倍以上になったものを再狭窄と定義されることが多い1)。
□CT検査(computed tomography angiography:CTA):X線被ばくや造影剤による腎機能障害などの欠点はあるが,非侵襲的検査で最も有用な検査である。三次元再構築により血管造影以上の情報を含んだ画像を得ることが可能である。近年ステント留置後慢性期開存評価に,エコーなどと同様にCTAでのMIP画像での評価も用いられることが多い。
□磁気共鳴血管造影法(magnetic resonance angiography:MRA):CTAとは異なり,X線や造影剤を使用しないため,被ばくや腎機能障害は認めない。また膝下病変,特に足背動脈や足底動脈において,腸骨動脈や大腿膝窩動脈領域の順行性の血流が悪いため,血流存在の確認が明確でない場合の判断材料としてMRIを用いることがある。しかし,石灰化やステントが存在する部位での狭窄度評価は困難であり,画像上のアーチファクトによる狭窄の過大評価も少なくない。
□皮膚組織灌流圧検査(skin perfusion pressure:SPP):重症虚血肢症例に対して局所の虚血評価に用いられる検査法である。SPPは血圧計同様患肢にマンシェットを巻き,いったん駆血をした後,ゆるめながら皮膚の血流量が上昇してくるときの圧を測定する。測定値は,血管の石灰化・浮腫の影響をほとんど受けず,難治性潰瘍の治癒予測,四肢切断レベルの判定,糖尿病性足病変や石灰化症例の重症度評価に有用である。また血行再建術後の効果判定にも有用である。本検査値が30mmHgで約80%,45mmHg以上では100%の症例で創傷が治癒する2)。
□血管造影検査:最終的診断法であるが,今日では,CTAで確定診断ならびに重症度診断が確実にできるため,カテーテル治療直前に対照造影として実施されることが多い。
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