□芽胞を形成するグラム陽性桿菌である炭疽菌(Bacillus anthracis)による感染症である。
□土壌,河川水など環境中に芽胞として存在し,ウシ,ヒツジ,ヤギなどの草食動物に感染すると栄養型菌として増殖する。
□本菌は人獣共通感染症であり,感染経路としては,家畜取り扱い業者や獣医師への直接感染,羊毛や皮革を介した感染,感染動物の摂食による感染などがある。
□また本菌は,第二次世界大戦以降,生物兵器として研究されてきた歴史を有するが,特に2001年米国でテロ事件に用いられ,現在バイオテロに使用されうる病原体として注目されている。米国CDC(疾病管理センター)は,炭疽菌をバイオテロのリスクが最も高いカテゴリーAに分類している。わが国では,炭疽は感染症法において4類感染症に指定されており,診断した医師は直ちに最寄りの保健所に届け出る。
□炭疽には4つの主要病型がある。以下,感染症法に基づく届出基準より抜粋引用する。
□皮膚炭疽:全体の95~98%を占める。潜伏期は1~7日である。初期病変はニキビや虫さされ様で,かゆみを伴うことがある。初期病変周囲には水疱が形成され,しだいに典型的な黒色の痂皮となる。およそ80%の患者では痂皮の形成後7~10日で治癒するが,20%では感染はリンパ節および血液へと進展し,敗血症を発症すると致死的である。
□肺炭疽:上部気道の感染で始まる初期段階はインフルエンザ等のウイルス性呼吸器感染や軽度の気管支肺炎に酷似しており,軽度の発熱,全身倦怠感,筋肉痛等を訴える。数日して第2の段階へ移行すると突然呼吸困難,発汗およびチアノーゼを呈する。この段階に達すると,通常24時間以内に死亡する。
□腸炭疽:本症で死亡した動物の肉を摂食した後,2~5日で発症する。腸病変部は回腸下部および盲腸に多い。初期症状として悪心,嘔吐,食欲不振,発熱があり,ついで腹痛,吐血を呈し,血液性の下痢を呈する場合もある。毒血症へと移行すると,ショック,チアノーゼを呈し死亡する。腸炭疽の致死率は25~50%とされる。
□髄膜炭疽:皮膚炭疽の約5%,肺炭疽の2/3に引き続いて起こるが,稀に初感染の髄膜炭疽もある。髄膜炭疽は発症後2~4日でほぼ100%が死亡する。
□炭疽の確定診断のためには,病巣組織,血液,髄液,胸水,皮膚病変部を検体として,分離・同定による病原体の検出もしくはPCR法による病原体の遺伝子の検出を行う。
□検査所見は,病型により異なるが一般に非特異的である。肝酵素(ALT,AST)の上昇,軽度の末梢血白血球数増加,CRP軽度上昇などがみられる。
□末梢血白血球数12000/μL以上か4000/μL以下,CRP上昇,PaO2/FiO2<300,クレアチニン値の上昇,血小板減少などは,敗血症や多臓器障害のサインである。
□肺炭疽では,胸部X線写真などの画像において胸水貯留や肺野の浸潤影,縦隔リンパ節炎による縦隔拡大がみられる。
1190疾患を網羅した最新版
1252専門家による 私の治療 2021-22年度版 好評発売中
PDF版(本体7,000円+税)の詳細・ご購入は
➡コチラより