麻しんは,麻しんウイルスによって引き起こされる急性の全身感染症です。麻しんウイルスは,空気感染,飛沫感染,接触感染でヒトからヒトへ感染が伝播します。感染力は非常に強く,免疫を持っていない人が感染すると,ほぼ100%発症し,一度感染して発症すると一生免疫が持続することも報告されています。感染すると約10日後に発熱や咳,鼻水といった風邪のような症状を認めます。典型的には,2~3日発熱が続いた後,39℃以上の高熱と発疹が出現します。 肺炎や中耳炎を合併しやすく,約1000人に1人の割合で脳炎が発症し,約1000人に1人が死亡することが報告されています。その他の合併症として,麻しんウイルスに感染後,約10万人に1人に,特に学童期に亜急性硬化性全脳炎(SSPE)と呼ばれる中枢神経疾患を発症することもあります。
麻しんの予防にはワクチン接種(原則,2回接種)が必要です。麻しんの患者に接触した場合,72時間以内に麻しんワクチンの接種をすることで,麻しんの発症を予防できる可能性もあります。さらに,接触後5〜6日以内であれば,γ-グロブリンの注射で発症を抑えることができる可能性もあります。麻しんワクチンを接種することによって,約95%の人が麻しんウイルスに対する免疫を獲得することができると言われています。
日本は,2015年3月27日に世界保健機関(WHO)西太平洋地域事務局により,次の2つの状態を満たすことにより,麻しんの「排除状態」であると認定されました。
①国内では「日本にいる麻しんウイルス」による流行が起こっていない状態
②国内に土着する麻しんウイルスによる感染が3年間確認されない状態
日本においては,2014年の感染症法改正によって,麻しんを診断した医師は直ちに患者氏名,生年月日,住所等の厚生労働省令で定める事項を,最寄りの保健所に届け出ることが求められています。
2025年3月6日時点で,米国の12の管轄区域から合計222人の麻疹患者が報告されています。テキサス州やニューメキシコ州における発生報告数が多く,死亡例の報告もされています。年齢群は5歳未満:76(34%),5〜19歳:99(45%),20歳以上:40(18%),年齢不明:7(3%)です。ワクチン接種状況は,未接種または不明:94%,1回接種:4%,2回接種:2%です。
さらに,メキシコのチワワ州から麻しんの報告があり,報告数の一部はテキサス州で発生している流行との関連が疑われるとも報告されています。具体的には,チワワ州における最初の症例は,テキサス州への渡航歴のある未成年者で,後に確認された症例と密接に接触していたことが判明しました。チワワ州はニューメキシコ州とテキサス州に隣接しており,メキシコの他の州と比較して米国との国境が最も長くなっています。
日本国内においても,麻しんの散発例の報告もあります。海外における麻しんの発生動向にも注意しながら対応していきましょう。
【文献】
1)厚生労働省:麻しんについて. (2025年3月12日アクセス)
2)米国CDC:Measles Cases and Outbreaks. (2025年3月12日アクセス)
3)El Diario de Chihuahua:Aumenta casos de sarampión en Cuauhtémoc y de tos ferina en el estado. (2025年3月12日アクセス)
石金正裕 (国立国際医療研究センター病院国際感染症センター/ AMR臨床リファレンスセンター/WHO協力センター)
2007年佐賀大学医学部卒。感染症内科専門医・指導医・評議員。沖縄県立北部病院,聖路加国際病院,国立感染症研究所実地疫学専門家養成コース(FETP)などを経て,2016年より現職。医師・医学博士。著書に「まだ変えられる! くすりがきかない未来:知っておきたい薬剤耐性(AMR)のはなし」(南山堂)など。