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ゾコーバ®処方時の直接経口抗凝固薬(DOAC)薬剤変更の可否

No.5260 (2025年02月15日発行) P.53

四柳 宏 (東京大学医科学研究所先端医療研究センター感染症分野教授)

登録日: 2025-02-14

最終更新日: 2025-02-07

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エンシトレルビル フマル酸(ゾコーバ®:抗SARS-CoV-2薬)を処方する際,リバーロキサバン(イグザレルト®:選択的直接作用型第Ⅹa因子阻害薬)やアピキサバン(エリキュース®:経口FⅩa阻害薬)を使用中の人に,その間のみエドキサバン(リクシアナ®:経口FⅩa阻害薬)等に変更するのはいかがでしょうか。
周囲薬局の関係でモルヌピラビル(ラゲブリオ®:抗ウイルス薬)の処方が困難なのです。ご教示下さい。(千葉県 K)


【回答】

【DOACの変更が必要であれば,エドキサバンへの変更がよいが用法・用量の確認が望ましい】

エンシトレルビル フマル酸(ゾコーバ®)は通常の用法・用量(初日375mg,2日目以降125mg投与)でCYP3Aを強く阻害することが示されています1)。したがってCYP3Aで代謝される他の薬物の代謝を遅らせ,血中濃度を高めることになります。このため,CYP3Aで代謝される薬物との併用は禁忌あるいは注意になる場合があります。

現在,本邦で使用可能な直接経口抗凝固薬(direct oral anticoagulants:DOAC)はダビガトラン(プラザキサ®),リバーロキサバン(イグザレルト®),アピキサバン(エリキュース®),エドキサバン(リクシアナ®)ですが,CYP3A4で代謝される割合はダビガトランではほとんどなく,その他はそれぞれ18%,25%,4%未満と書かれています2)。割合の高いアピキサバン,リバーロキサバンとエンシトレルビル フマル酸の併用は,禁忌あるいは注意とされています。

また,エンシトレルビル フマル酸はP-glycoprotein(P-gp)の阻害薬であるため,P-gpポンプから排出される薬の血中濃度を高める可能性があります1)。ダビガトランがこれに該当するため,併用注意となっています。他のDOACもすべてP-gp阻害薬の影響を受けますが,血中濃度の上昇がダビガトランに比べて軽度であるとされています。

併用禁忌・併用注意のいずれにも該当しないのが,ご質問頂いたエドキサバンです。したがって,DOACからDOACへの切り替えが望ましければエドキサバンへ切り替えることとなります。しかしながら,エドキサバンもCYP3A4で代謝され,P-gp阻害薬の影響を受ける薬剤であり,使用にあたっては注意する必要があります。場合によっては,ワルファリン(CYP2C9で代謝)への切り替えも考えられます。切り替えに際しては,それぞれの薬物の添付文書を慎重に確認した上で,通常の用法・用量でよいかどうかを決定するのが望ましいです。

なお,エンシトレルビル フマル酸はCYP3Aの基質であり,CYP3Aを強く誘導する薬剤を併用した場合,代謝が亢進することにより血中濃度が低下し,作用が減弱する可能性が示唆されますが,DOACにはCYP3A誘導作用はないとされています。

【文献】

1)エンシトレルビル フマル酸インタビューフォーム.

2)Steffel J, et al:Eur Heart J. 2018;39(16):1330-93.

【回答者】

四柳 宏 東京大学医科学研究所先端医療研究センター感染症分野教授

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