株式会社日本医事新報社 株式会社日本医事新報社

CLOSE

ボリビア多民族国におけるチャパレ出血熱の報告[感染症今昔物語ー話題の感染症ピックアップー(32)]

No.5261 (2025年02月22日発行) P.69

石金正裕 (国立国際医療研究センター病院国際感染症センター/AMR臨床リファレンスセンター/WHO協力センター)

登録日: 2025-02-24

最終更新日: 2025-02-19

●ボリビア多民族国でチャパレ出血熱が報告!1)

2025年1月7日に,ボリビア多民族国からWHOにチャパレウイルス(Chapare virus)感染症例が報告されました。患者はラパスに住む50〜60歳の農家の成人男性で,2024年12月19日に発熱,頭痛,筋肉痛,関節痛,歯茎出血などの症状が出現しました。同月24日に医療機関を受診し,同月30日に死亡しました。その後,2025年1月2日に血液検体からPCR検査でチャパレウイルスの遺伝子が検出され,チャパレ出血熱と診断されました。

患者の生活環境は,木造住宅で,ココナッツの植え込み等があり,げっ歯類の活動を助長する環境でした。濃厚接触者2名(妻,娘)から血液検体を採取したところ,陰性と判明しました。1月13日時点で,二次感染者の報告はなく,すべての接触者は無症状です。

●チャパレ出血熱とは1)2)

ヒトは,チャパレウイルスに感染したネズミの唾液,尿,糞に接触することでチャパレ出血熱に罹患します。主な症状は,発熱,頭痛,関節や筋肉の痛み,目の奥の痛み,胃痛,嘔吐,下痢,歯茎からの出血,発疹などで,潜伏期間は4〜21日間と言われています。血液からPCR検査で遺伝子を検出することで診断します。特異的な抗ウイルス薬やワクチンはありません。

現在ボリビア多民族国でのみ発生が確認されており,2003年以降,次の4件の報告があります。

  • 2003年:コチャバンバ県チャパレにて1例(死亡1例)
  • 2019年:ラパスにて9例(死亡4例)
  • 2021年:ラパスにて3例(死亡2例)
  • 2024年:ラパスにて1例(死亡1例)

●チャパレ出血熱は南米出血熱(一類感染症)に含まれる2)

日本の感染症法における一類感染症の中に南米出血熱があります。南米出血熱は,南米大陸におけるアレナウイルス科アレナウイルス属のウイルスによる出血熱の総称です。アルゼンチン出血熱,ブラジル出血熱,ベネズエラ出血熱,ボリビア出血熱のほかに,今回ボリビア多民族国で報告されたチャパレ出血熱も南米出血熱に含まれます。

これらの出血熱は,それぞれ異なるウイルスによる感染症です。アルゼンチン出血熱はフニンウイルス(Junin virus),ボリビア出血熱はマチュポウイルス(Machupo virus),ベネズエラ出血熱はグアナリトウイルス(Guanarito virus),ブラジル出血熱はサビアウイルス(Sabia virus),チャパレ出血熱はチャパレウイルス(Chapare virus)が原因となります。アルゼンチン出血熱を除いて発生はきわめて稀で,感染する可能性のある地域は限定的と言われています。

一類感染症であるため,診断した医師は直ちに最寄りの保健所へ届け出ることが義務づけられています。

なお,WHOは今回のチャパレ出血熱に対して,ボリビア多民族国のみでの報告であり,またヒト-ヒト感染は起こりうるが一般市民への感染は稀であるため,国際的に拡大する大きな危険性はないとリスク評価をしています。またWHOは継続的なサーベイランス,一般市民の意識向上,感染予防・管理対策の遵守が重要であるとしています。

【文献】

1)WHO:Chapare haemorrhagic fever- the Plurinational State of Bolivia.(2024年2月4日アクセス)

2)厚生労働省:南米出血熱.(2024年2月4日アクセス)

石金正裕 (国立国際医療研究センター病院国際感染症センター/ AMR臨床リファレンスセンター/WHO協力センター)

2007年佐賀大学医学部卒。感染症内科専門医・指導医・評議員。沖縄県立北部病院,聖路加国際病院,国立感染症研究所実地疫学専門家養成コース(FETP)などを経て,2016年より現職。医師・医学博士。著書に「まだ変えられる! くすりがきかない未来:知っておきたい薬剤耐性(AMR)のはなし」(南山堂)など。

関連記事・論文

もっと見る

関連書籍

もっと見る

関連求人情報

もっと見る

関連物件情報

もっと見る

page top