日本脳炎は,フラビウイルス属の日本脳炎ウイルスへの感染によって引き起こされる急性脳炎である。ブタなどの増幅動物で増殖した血液内のウイルスを,コガタアカイエカなどの媒介蚊が吸血し,その後ヒトを刺すことで感染が成立する。世界では小児を中心に年間約7万人弱の患者が発生していると推測されているが,日本国内での近年の発生数は年間10例以下程度である。
感染しても無症状または頭痛,発熱程度の軽微な症状ですむ場合が多いが,一部の患者が脳炎症状を呈する。脳炎を発症した患者の死亡率は約30%で,生存者の30〜50%に精神神経学的後遺症が残る。日本国内における発症者の多くは小児と高齢者である。潜伏期間は5〜15日程度であり,発症前約2週間以内に国内・海外の流行地域に旅行歴があり,原因微生物が特定できていない脳炎患者の場合に,積極的に疑う。国内で感染したと推測される症例のほとんどは4~11月の期間(特に夏季の時期に多い)に発生しており,発症時期も診断の推測に重要である。
画像検査では,視床の変化が比較的特徴的と考えられており,脳炎を呈する患者でMRI検査の画像で視床病変を認める場合には,積極的に疑う。ただし感度の高い所見ではないので,視床病変がないことで日本脳炎を除外することはできない。
診断は,髄液または血清からの核酸増幅検査,または抗体価検査(HI試験,CF試験,IgM捕捉ELISA法,中和試験)などで行う。脳脊髄液や血清を用いた核酸増幅検査が陽性になれば確定診断であるが,発症初期に検査を実施しなければ陽性にならず,検出感度は低い。HI試験で確実な判断を行うためには,急性期と回復期のペア血清で4倍以上の抗体価上昇かつ単一血清の最高値が1:320倍以上であること,またCF試験で確実な判断を行うためには,急性期と回復期のペア血清で4倍以上の抗体価上昇かつ単一血清の最高値が1:16倍以上であること,の条件を満たすことが必要である。
IgM捕捉ELISA法での特異的IgM抗体が陽性の場合も,診断はほぼ確実と判断できるが,これらの抗体検査は,他のフラビウイルス属(デングウイルス,西ナイルウイルス,ダニ媒介脳炎ウイルス等)間での交差反応が強いため,鑑別する場合には中和試験法が有用である。また,脳脊髄液からの特異的IgM抗体によっても診断可能で,血清IgMよりも早期から検出でき,ワクチン接種の影響を受けにくい点で有用である。
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