□レオウイルス科のロタウイルス属のウイルスが経口感染して引き起こす感染症である。
□ロタウイルス感染症は,かつて冬季乳幼児下痢症として知られていたが,近年,流行期は3~5月に移動している。
□嘔吐,下痢などの胃腸炎症状は,他の胃腸炎ウイルス(ノロウイルスなど)に比べて重く,中枢神経障害に伴う痙攣,脳症,腎不全などの合併症を伴うこともあり,乳幼児の場合,脱水とともに重症化に対する注意が必要である。
□2011~12年にかけてわが国に導入されたロタウイルスワクチン(ロタリックス®,ロタテック®)の効果により,ロタウイルス感染症による重症入院症例は劇的な減少傾向を示している。
□ロタウイルスは,レオウイルス科のロタウイルス属に属する直径約100nmの特徴的な3層のキャプシド構造を持つ球形ウイルスであり,エンベロープは持たない。ゲノムとして11本の二重鎖RNAを有する。ウイルス粒子中間層のVP6蛋白質の抗原性によりA~H群に分類されている。
□ヒトから検出されるロタウイルスは約9割以上がA群,1割未満がC群である。B群は,わが国においては報告例がない。
□最外層のVP7蛋白質(G遺伝子)とVP4蛋白質(P遺伝子)のタイプによりG1P[8],G2P[4]のように,さらにタイプ分けされる。
□主要なGタイプおよびPタイプはG1~4,G9およびP[8],P[4]である。
□2~4日の潜伏期間の後,小腸絨毛の先端約1/3の上皮細胞でウイルスが増殖するため,嘔吐,腹痛,下痢,発熱などの主症状を呈する。激しい嘔吐と水様性下痢のため,乳幼児は脱水から重症化し,入院を必要とする症例も多い。他の胃腸炎ウイルスに比べ,症状が重篤な傾向がある。
□中枢神経障害に伴う痙攣,脳症,腎不全などの合併症を伴うこともあり,死亡例も報告されている。
□開発途上国におけるロタウイルスに起因する下痢症死亡は,年間約45万人と推計されている。さらに,先進国においても乳幼児の急性下痢症の最も主要な病因であり,死亡例も報告されている。下痢症が重症になればなるほどロタウイルスが病因として占める割合が高くなる。
□患者の便中には1g当たり1012個(ノロウイルスの10万倍の量)のロタウイルスが含まれており,容易に二次感染によって感染が拡大する。アルコールには抵抗性を示すため,ノロウイルスと同様に次亜塩素酸ナトリウム,加熱処理による消毒を行うことが推奨される。乳幼児の集まる産婦人科,保育施設などでは,二次感染予防のため,迅速な診断と隔離が必要になる。
□上記症状と年齢,季節,周辺地域の流行状況などにより総合的に判断する。症状から細菌性とウイルス性の鑑別は困難だが,血便の場合は細菌性をより疑う。
□ロタウイルス感染症は,ノロウイルス感染症と異なり,ほとんどが乳幼児である。稀に成人のロタウイルス感染症,ロタウイルスに起因する食中毒が報告される。
□ロタウイルスには保険適用された高感度な検査薬が複数存在しており,容易に確定診断が可能である。
□ベッドサイド迅速診断としては,イムノクロマトグラフィー,ラテックス凝集反応のキットがある。特性が高く高感度なELISAも保険適用されている。
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