□バンコマイシン耐性腸球菌(vancomycin resistant enterococci:VRE)は腸管内常在菌である腸球菌のうち,バンコマイシン(グリコペプチド系薬)に対して耐性を獲得した菌で,多くは多剤耐性を示す。腸球菌は尿路感染症,胆道感染症,細菌性心内膜炎,腹腔内感染症(虫垂炎,憩室炎)などの起因菌である。また医療関連感染症原因菌として,消化管術後創部感染症,各種医療デバイス感染症,腹膜透析患者の腹膜炎などを起こす。特にVREは多剤耐性であることから医療関連感染症起因菌としての傾向が強く,典型的な院内感染菌,日和見感染菌である。治療のために入院してきたVRE保菌者が最初に院内に菌を持ち込み,その患者の排泄物や汚染物,医療者の手指などを介して他の入院患者へ糞口感染することで速やかに院内に拡散,伝播する。
□VRE保菌者となった患者が自己感染によって発症することがほとんどであるため,VRE感染症が発見された時点で,既に病院内にVRE感染が拡がっており,その後の感染対策に難渋する場合が多い。
□腸球菌の耐性化は各種のバンコマイシン耐性遺伝子(Van遺伝子)を外来性に獲得することによる。臨床で問題となるのは高度耐性〔最小発育阻止濃度(minimum inhibitory concentration:MIC)値>32mg/L〕を示すVanA型,あるいはVanB型耐性遺伝子を保持するE. faecalis菌やE. faecium菌である。VanC型は非病原性菌種が元来保持している自然耐性遺伝子であり,低度耐性であることからも問題とならない。世界的にVanA型E. faeciumがVREとして最も多く分離されるが,国内ではE. faecalisやVanB型VREも海外に比べて多く分離される。またVREは近隣諸国を含め,海外では院内感染症起因菌として高頻度に臨床分離されるが,国内では年間100例ほどの報告数である。VRE感染症は国内では感染症法で5類感染症として分類されており,届出の義務がある(届出基準はMIC値16mg/L以上)。
□各種感染症(尿路感染症,胆道感染症,細菌性心内膜炎,創部感染症,髄膜炎,腹膜炎,敗血症)に特徴的な症状を示す。
□患者の検体(尿,分泌物,膿,髄液,血液)に短連鎖を形成するグラム陽性球菌が検出される。
□細菌培養,薬剤感受性試験でバンコマイシン耐性を示す(MIC値>16mg/L)E. faecalisあるいはE. faeciumが検出される。
□テイコプラニンには低度耐性,あるいは感受性を示す株も存在する。
□ポリメラーゼ連鎖反応(polymerase chain reaction:PCR)を利用した遺伝子検査によってVanA型あるいはVanB型耐性遺伝子を検出する。ただし,感染症法に基づく届出には遺伝子検査の必要はない。
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