□目標は,症状はないか,あっても軽度で日常生活に支障のない,薬もあまり必要ではない状態で,症状は持続的に安定していて急性増悪があっても頻度は低く(年に数回,2週間程度),遷延しない状態,アレルゲン誘発反応がないか,または軽症の状態になることである(表)。
□治療の第一原則は,原因アレルゲンの回避である。寝具,カーペットの洗濯,清掃の徹底によるダニの排除,花粉飛散情報の活用,マスクや眼鏡による花粉曝露の軽減などが行われる。症状の大きな改善につながるような回避は実際には容易ではないが,治療の基本である。さらに,薬物療法,アレルゲン免疫療法(減感作療法),手術治療などを検討することになる。症状の強さ,内容,年齢や患者の背景を考慮して治療方針を決定する。
□薬物療法は,最も広く普及している。薬剤の特徴を理解して実際の治療にあたる。患者の症状の強さ,症状の内容,特にくしゃみや鼻水が中心か(くしゃみ・鼻汁型),あるいは鼻閉が中心か(鼻閉型)を考慮して薬剤を選択する。
□国内では,鼻アレルギー診療ガイドラインに薬物治療についても指針が記載されている(表)1)。ある程度の症状がみられる場合には,単剤ではなくいくつかの薬剤を併用した治療方針が推奨されている。いずれにせよ画一的な治療は避けなければならない。
□アレルゲン免疫療法(減感作療法)は,現在唯一アレルギー性鼻炎の自然経過を改善させる方法である。従来からアレルゲンの皮下投与法で行われているが,効果の出現が期待される維持量まで2~3カ月必要なこと,2年以上計50回以上の通院が必要なこと,稀ではあるが,アナフィラキシーなど重篤な副作用の発現の可能性があることなどの課題がある2)。
□最近登場したアレルゲンの舌下投与法は,重篤な副作用が少なく,自宅での投与が可能で,痛みがないという特徴があり,患者負担を軽減させるものとして注目されている。現在はスギ花粉舌下液とダニ舌下錠が市販されている。連日の投与が必要で,治療期間は3年以上が推奨されている。また,重症喘息,使用アレルゲンでショックの既往がある場合は禁忌である3)。
□重症度に応じて治療法を選択する(表)。
□ダニ舌下錠を用いる(図)。軽症から中等症まで適応になるが,治療期間が長いためデメリットも十分に説明して了解を得る必要がある。
□以下,成人および12歳以上の小児の通常処方例を示す。
□いずれも舌下投与後は溶解するまで保持した後,飲み込む。投与後5分間はうがい・飲食を控える。
□初回投与時は医師の監督のもと,投与後少なくとも30分間は患者を安静な状態に保たせ,十分な観察を行う。
□他のアレルギー疾患との合併率が高い。アレルギー性鼻炎患者の約20%に喘息の合併がみられ,合併症の適切な治療も並行して進める必要がある。
□アレルギー性鼻炎の治療に用いられる薬剤は,一般に安全性は高いが,抗ヒスタミン薬は鎮静作用を有し,車の運転は禁忌とするものが多い。
□舌下免疫療法は全身的な副作用は少ないが,アナフィラキシーショックの発現は1億回の投与に1回程度とされている。国内外で死亡例の報告はないが,注意は必要である。ショックなどの発現時にはアドレナリン投与も含め適切な対応がとれるように準備をしておく。局所の副作用は口内を中心に比較的高い頻度で認められるが,ほとんどは治療の必要がない。必要に応じて抗ヒスタミン薬の投与を行う。
□くしゃみや水性鼻漏など鼻粘膜の過敏症状を有しながら,非アレルギー性の鼻炎として血管運動性鼻炎,好酸球増多性鼻炎がある。血管運動性鼻炎は,アレルギー検査は陰性でアレルギーは証明されず,中年以降の女性に比較的多い。好酸球増多性鼻炎は,アレルギー検査は陰性だが鼻汁好酸球のみ増加がみられるものである。治療は,症状に対応して抗ヒスタミン薬や鼻噴霧ステロイド薬が用いられる。
□薬物療法にて症状の改善がみられない場合には,指示通りに使用をしているのかを確認すると同時に,鼻中隔弯曲症,あるいは鼻ポリープの存在などを疑い耳鼻咽喉科専門医へ相談することも必要である。
□アレルギー性鼻炎治療で用いられる薬剤の安全性は一般的に高いが,高齢者では抗ヒスタミン薬の使用は前立腺肥大合併時には注意が必要である。
□アレルゲン免疫療法については65歳以上での使用経験が特に国内では少なく,慎重な投与が必要である。高齢者では比較的自然寛解もみられることも考慮すべきである。
1) 鼻アレルギー診療ガイドライン作成委員会, 編:鼻アレルギー診療ガイドライン─通年性鼻炎と花粉症─2016年版. 改訂第8版. ライフ・サイエンス, 2015.
2) 日本アレルギー学会, 編:ダニアレルギーにおけるアレルゲン免疫療法の手引き. メディカルレビュー社, 2015.
3) 日本鼻科学会:日鼻誌. 2012;51(2):119-54.
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