メニエール病のめまいは誘因なく発症し,数十分から数時間持続する。めまいのある発作期とめまいがない間欠期を繰り返すのが特徴である。めまいに難聴,耳閉塞感,耳鳴を伴うが,片耳に起きることが大半で両耳に起こることは稀である。発症初期の難聴は可逆性であるが,めまい発作を反復していく過程で不可逆性になる。
鑑別診断には前庭性片頭痛,外リンパ瘻,聴神経鞘腫などがある。片頭痛はメニエール病患者で併存率が高く,めまい症状の悪化因子となる。メニエール病の治療には薬物療法(利尿剤,抗めまい薬など),ライフスタイルの変更(休養,ストレスマネージメントなど),ステロイド鼓室内注入,中耳加圧治療,手術(内リンパ嚢開放術,選択的前庭破壊術など)があり,めまい苦痛度に準じて,治療強度を上げていくことが必要となる1)。
メニエール病の病態は内耳における内リンパ水腫である。その成因は明らかではないが,バソプレッシンとアクアポリン2が関連する内耳における水分代謝異常と考えられ2),漢方医学的に痰飲が頭部に貯留している状態,水滞,水毒,痰濁上擾と解釈される。そのため,利水作用のある漢方として,五苓散,苓桂朮甘湯,半夏白朮天麻湯などが効果的である。本症例のように片頭痛を併存している例には頭痛とめまいの症状軽減効果に半夏白朮天麻湯を処方している。
メニエール病患者は気質的にストレスを感じやすい方が罹患しやすく,反復するめまいや耳鳴が続くことで不安や抑うつが増加し,ストレス過多で自律神経失調を呈する肝陽上亢の病証となる場合も多い1)3)。そこに至ると前述した漢方に加えて,柴胡加竜骨牡蛎湯,加味帰脾湯が症状の軽減に有効である。さらに進行期では内耳の慢性循環障害となり,難聴が不可逆的となり,回転性のみならず浮動性めまいが持続する4)。いわゆる血瘀の病証となり愁訴は安定しないため,治療に難渋することがある。そうしたケースでは前庭リハビリテーションとともに加味逍遙散,桂枝茯苓丸などを処方する。
メニエール病患者個々の病証に応じて漢方を使い分けることで治療効果の向上が期待できる(図)。