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無菌性髄膜炎

登録日:
2017-03-16
最終更新日:
2017-03-29
佐々木 元 (茅ヶ崎市立病院小児科医長)
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  • ■疾患メモ

    無菌性髄膜炎(aseptic meningitis)は,髄膜の炎症を首座とする疾患群のうち,グラム染色や通常の培養検査で細菌の存在が証明されない病態を指す。

    多くの場合は予後良好であり対症療法のみで軽快する。

    ウイルス性髄膜炎:無菌性髄膜炎のほとんどはウイルス性であり,エンテロウイルスが大半を占める。わが国における無菌性髄膜炎の2011~14年の国立感染症研究所病原微生物検出情報によれば,ウイルスが特定できた症例においてはエコーウイルス,コクサッキーウイルスなどのエンテロウイルス属が68~84%を占めており,夏から秋にかけて流行している。特に近年,東アジアでEV71による手足口病が流行すると,無菌性髄膜炎や脳炎などの中枢神経合併症の頻度が高くなることが報告されている。ついでムンプスウイルスが2.8~10.6%であり,そのほか単純ヘルペスウイルス(HSV),アデノウイルス,水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)などの頻度が高い。

    ウイルス性以外の無菌性髄膜炎:感染症としては真菌や結核菌などのほかMycoplasma pneumoniae,リケッチア,寄生虫なども原因となる。予防接種後にみられることもある。非感染性の原因としては非ステロイド性抗炎症薬,抗菌薬,免疫グロブリン製剤などの薬剤によるもの,全身性エリテマトーデス,ベーチェット病などの膠原病に関連したもの,白血病や脳腫瘍に伴うものなどが知られている。

    ■代表的症状・検査所見

    【症状】

    発熱のほか,頭蓋内圧亢進症状としての頭痛や嘔気・嘔吐,乳児の場合は大泉門の膨隆,髄膜刺激症状として項部硬直,Kernig徴候,Brudzinski徴候,抱き上げているときのほうが不機嫌になるparadoxic irritabilityなどを認める。

    ただし2歳未満の場合は,発熱,易刺激性,活気不良はしばしばみられるが,項部硬直は90%以上の症例において認められないと報告されている。項部硬直は年長児においても認めないこともあるため,髄膜刺激症状を認めない場合でも髄膜炎は否定はできない。

    病因検索においては発疹,腹部症状などの随伴する症状が重要になる。意識障害,神経学的局所徴候は典型例ではみられず,脳炎や細菌性髄膜炎を考慮する必要がある。

    【検査所見】

    確定診断には腰椎穿刺による髄液検査が必須である。病因により異なるが,ウイルス性髄膜炎の場合は髄液の細胞数増多の程度は通常は数個~1000/μL程度とされるが,数千/μLまで上昇する例もみられる。髄液細胞は一般には単核細胞優位の増多を示すが,病初期は多核細胞優位となることがある。髄液糖は正常,蛋白は正常または軽度上昇を示すことが多い。

    血液検査でCRP,プロカルシトニンなどが高値の場合は細菌性髄膜炎を考慮する。Nigrovicらが提唱したBacterial Meningitis Scoreでは髄液好中球数1000/μL以上,あるいは末梢血好中球数1万/μL以上の場合は細菌性髄膜炎を考慮し,抗菌薬治療開始を推奨している1)2)

    【病因検索】

    発症前の周囲の流行状況や接触歴,予防接種歴,前駆症状,髄膜炎に伴う徴候以外の症状などから適切な原因検索を行う。

    髄液,便,咽頭拭い液などのウイルス分離やゲノム検出(PCR)が原因ウイルスの確定に有効であるが,いずれも保険適用外であり,一般には結果が得られるまでに時間もかかる。

    結核や真菌によるものはウイルス性髄膜炎と比べると髄液糖が低下することが多い。結核を疑う場合には髄液中のアデノシンデアミナーゼ(ADA),抗酸菌培養のほか,クォンティフェロン検査なども補助診断として有用である。耳下腺腫脹がみられる場合にはムンプスウイルス,典型的な水疱がみられる場合などはVZV,前駆症状に気道症状がみられる場合はMycoplasma pneumoniaeなどの感染症を疑う。

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