生後2~3週で始まる噴水状嘔吐を特徴とし,幽門筋,主として輪状筋の肥厚により内腔が狭小化し通過障害を呈する。右上腹部にオリーブ様と称される腫瘤を触知したり,エコー検査で幽門筋の肥厚を描出したりすることで診断される。大量の胃液喪失により脱水・低クロール性代謝性アルカローシスを呈する。近年,アトロピン投与による保存治療が散見されるが,治療効果・期間などの観点から,古典的な外科治療である粘膜外幽門筋層切開術が今なお選択されることが多い。
生後2~3週頃(時に12週頃まで)より始まる噴水状嘔吐から,本症を想起する。非胆汁性であり,嘔吐後も哺乳意欲は旺盛である。胃の過蠕動が体表から観察されることもある。尿量減少や体重減少を認めることもあるが病悩期間による。
心窩部やや右側にオリーブ様腫瘤を触れれば診断されるが,患児の体格や啼泣などにより触知が難しくなったり,検査者の技量に左右されたりする。その点,エコー検査は有用で,肥厚した幽門筋が描出される。一般的診断基準として,幽門管長15mm以上,筋層厚4mm以上が採用されているが,新生児例や発症直後の症例では判断に迷うことがあり,エコー検査を反復することが肝要である。短軸像よりも長軸像が,筋層厚よりも幽門管長が,診断に寄与するとの報告もみられている1)。また,胃が虚脱していると幽門管,特に胃側境界が判別しにくい。胃内を生理食塩水で満たして幽門の胃側境界を明瞭化し,十二指腸への流出の有無を確認する。被曝を伴う上部消化管造影は極力回避する。
従来,本症は手術が治療スタンダードであったが,昨今,特にわが国において,アトロピンによる内科治療の選択肢が提示されている。
手術治療の強みは,治療効果が劇的で術後数日程度で自律哺乳が可能となり,早期に体重増加が得られ退院できる点にある。しかし,麻酔・手術に伴う合併症は稀ではあるが皆無でなく,創痕は残る。創痕については,最近では臍部アプローチや腹腔鏡手術が普及しており,従来の右上腹部の瘢痕に比し,整容性は改善した。
アトロピン治療の強みは,手術・麻酔に伴うリスクを回避でき,創痕を残さない点である。一方,奏効率と入院・治療期間の点で,手術治療に劣る。2018年のmeta-analysisによれば,アトロピン治療と手術治療の奏効率は81% vs. 100%(P<0.01)であり,入院期間は10.3±3.8日 vs. 5.6±2.3日(P<0.0001)であった2)。
上記観点のほかに,家族の希望,患児の日月齢,発症から診断までに要した時間,重症度なども勘案し,治療法を提案する。アトロピン治療を選択した場合でも,常に手術を意識しながら,低栄養状態がいたずらに長引くことのないよう注意している。
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