乳児期の股関節脱臼は生下時よりも出生後の発育過程で脱臼・亜脱臼に至る例が多く,発育性股関節形成不全(developmental dysplasia of the hip:DDH)と呼ばれる。寛骨臼より大腿骨頭が脱臼している状態から,骨頭の求心性の異常(脱臼~亜脱臼)や寛骨臼の形態異常(臼蓋形成不全)を含む。女児,左股関節に多く,わが国では秋~冬の寒冷時期に出生した児に多い。
DDHや変形性股関節症(OA)などの家族歴を確認する。出生時の胎位(骨盤位)を聴取する。乳児期の症状としては,開排制限,クリック徴候,見かけ上の脚長不等,大腿・鼠径部の皺の非対称などがある。向き癖や下肢の肢位を確認する。向き癖がある方向の反対側の下肢に肢位異常をきたすことが多く,股関節が内転や伸展傾向であれば本症を疑う。歩行開始後では跛行や脚長不等が主たる症状であり,両側脱臼例では立位・歩行時に腰椎前弯が明瞭であることが多い。
診断は超音波断層像(エコー検査)や単純X線像により行い,重症度を判定する。X線像で臼蓋角(α角)が30° 以上を臼蓋形成不全とする。また,大腿骨頸部近位内側と恥骨下縁とが形成するShenton線の連続性を調べる。エコー検査にはGraf法と前方法がある。Graf法により骨頭の位置と臼蓋の形状が描出され,前方法により骨頭と臼蓋の位置関係が明瞭となる。前方法では整復過程や整復後の骨頭と臼蓋の適合性も確認できる。
3カ月未満の新生児,乳児には抱き方を中心に指導して自然寛解を図る。3~6カ月の軽度の脱臼(亜脱臼~臼蓋形成不全,開排位で整復位)は装具療法が可能だが,それ以上の月齢,重度の脱臼(完全脱臼,あるいは開排位で非整復位)では原則として牽引治療にて緩徐に整復する。牽引による整復治療の適応は4歳未満としている。4歳以上の症例では観血的に整復する。
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