あけましておめでとうございます。2015年に佐久市が立ち上げた保護者向け医療情報発信プロジェクト「教えて! ドクター」も2025年で10年になります。私も開始当初から責任者として関わり、その間情報提供の手段も、出前講座や冊子からデジタルフライヤー、アプリ、SNSの活用に移りました。気づいたら医療情報発信は私にとってのライフワークのような存在になっています。ここ2〜3年は、アプリを活用した情報発信について研究をしていて、保護者のヘルスリテラシーについて思いを巡らすことが多いです。
さて、情報洪水社会と言われる中、子どもの健康情報を探す手段は子育て本などの書籍からSNSをはじめとするネットになりました。ネットには根拠のない情報も拡散しやすいため、デジタルリテラシーが必要ですが、ネットで正確な情報を得るのは意外に難しいものです。検索結果は過去の検索によって歪められて中立的な情報は得られにくい(フィルターバブル効果)ですし、ネットで自分と同じ意見を繰り返し目にすればするほど、それ以外の意見は見えにくくなる(エコーチェンバー現象)ためです。
そのような状況の中、これからの医療情報発信はどうあるべきでしょうか。私は3つのポイントがあると考えています。1つ目は「出典の記載を大事にする」ことです。根拠のある情報を示すために、どの論文の内容をふまえた情報なのかを明記することは、信頼度の向上だけでなく発信者自身を守ることにもつながります。もちろん論文にも玉石混交あるため、我々自身も適切な文献を選び取る力を身につける必要があります。
2つ目は「まとまった情報の提供を意識する」です。情報量が莫大に多い現代では、すべての情報に目を通す時間はありません。タイパ(タイムパフォーマンス)重視の時代です。網羅性のある情報のニーズは高く、効率よく情報が得られるコンテンツを我々も準備する必要があります。そういう点で、フライヤーやアプリは優れたツールだと感じています。
一方でフライヤーの情報を届けるためには、読んでもらうための工夫が必要で、イラストレーターなど多職種で連携してコンテンツをつくることがこれからも大事になります。アプリについては、保護者の期待は高い反面、アプリを積極的に活用する保護者のヘルスリテラシーはもともと高く、ヘルスリテラシーが低い層には届きにくい可能性が我々の研究でも示されています1)。幅広い層に医療情報を届けるツールにするためには、まだまだ課題が多いと感じています。
3つ目は「先手を打つ」です。怪しい情報は一旦拡散すると、その後専門家が訂正を入れてもなかなか収束しづらいものです。そこで拡散するかもしれないと予想したテーマを、デマが広がる前に先手を打って情報発信することで、怪しい情報が拡散されにくくなる土壌をつくることができます。これをpre-bunkingと言います。デマの拡散を予防する手段として期待されていますが、そのためには、我々医療者自身がアンテナを高くして、より積極的に情報発信に関わることが重要です。
【文献】
1)Sakamoto M, et al:JMIR Pediatr Parent. 2024;7:e48478.
坂本昌彦(佐久総合病院・佐久医療センター小児科医長)[小児科][教えて! ドクター][医療情報発信]