□小児の貧血(anemia)には,様々なものがある。感染症などによる炎症に伴う一過性の貧血を除くと,最も多いのが鉄欠乏性貧血である。鉄欠乏性貧血は小児の場合,乳児期後期の9カ月~1歳半頃と女子の中学2年生以降の思春期に多い。また,早産児や低出生体重児の4~5カ月にみられる未熟児後期貧血も鉄欠乏性貧血である。
□これら以外に,新生児期では母児間血液型不適合による溶血や,母児間輸血症候群などの出血による貧血もある。未熟児では,出生後4週以内にエリスロポエチン産生が低下する未熟児前期貧血がみられることがある。
□溶血性貧血としては,先天性の遺伝性球状赤血球症などが乳児期に貧血を起こすことがあり,新生児期に高ビリルビン血症で発症することもある。
□その他,発症数は少ないが,遺伝性骨髄不全症候群は小児期に発症する場合が多く,再生不良性貧血と診断された患者の約10%は,ファンコーニ貧血や,ダイアモンド・ブラックファン貧血(先天性赤芽球癆),dyskeratosis congenitaなどの本症である。
□近年遺伝子の解析も進んできており,疑った場合は,専門医に相談することが望まれる。
□以上のように,小児における貧血は多様であるが,ここでは小児期に最もよくみられる鉄欠乏性貧血を中心に述べる。
□鉄欠乏性貧血では,一般的な貧血症状のほか,鉄欠乏に特有な症状がみられることがある。後者の症状としては,思春期の場合,異食症,特に氷を食べたくなる氷食症(パゴファジア)が多くみられる。
□乳児期後期では,落ちつきがないなどの症状が時にみられ,思春期以降では記憶力に問題が出る,という報告がある1)。こういった神経に関連した症状は,貧血に至らない鉄欠乏のみの状態でも起こることが知られている。
□これらの自覚症状は貧血が緩徐に起こるため,出現しにくいという特徴がある。
□鉄欠乏性貧血の検査所見として最も特徴的なのは,小球性低色素性貧血である。ただし,小児の場合は年齢によってヘモグロビンの値は異なり,赤血球恒数なども異なる。ヘモグロビン値は出生時は高いがその後低下し,生後2~3カ月頃が最低値となる。それ以降は徐々に上昇し,14~15歳頃成人値になると言われている。そのため,基準値は年齢により変わる。表にWHOの基準値を示す2)。
□小球性を示すMCVの値も年齢によってその正常値は異なる。ほぼヘモグロビンと同じような動きであり,生後2~3カ月が最も小さく,その後徐々に成人の値に近づいていく。
□鉄欠乏性貧血では血清鉄が低値であり,総鉄結合能が上昇する。血清鉄を総鉄結合能で除したトランスフェリン飽和度が0.16以下であれば,鉄欠乏を考慮する。また,肝臓などにおける貯蔵鉄を反映する血清フェリチンの低下(12ng/mL以下)は鉄欠乏で特徴的な所見である。鉄欠乏性貧血の場合,まず血清フェリチンの低下(貯蔵鉄の減少)が起こり,その後トランスフェリン飽和度が低下し,最後に貧血が現れる。ただし,血清フェリチンは風邪などの軽度の炎症があっても値が上昇することがあり,正確な値は健康なときに評価しなければならない。
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