著: | 河野和彦(名古屋フォレストクリニック院長) |
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判型: | B5判 |
頁数: | 368頁 |
装丁: | 2色部分カラー |
発行日: | 2017年03月13日 |
ISBN: | 978-4-7849-4570-2 |
版数: | 第1版 |
付録: | - |
■レビー小体型認知症,進行性核上性麻痺,大脳皮質基底核変性症,多系統萎縮症などでみられる歩行障害の治療法の詳細をまとめました。
■"実践"の書を旨とするコウノメソッドならではの,詳細な薬用量を開陳。
■10年歩けなかった脊髄小脳変性症で,点滴15分後に歩けるようになった患者さんも紹介。
■歩きにくくなったという主訴の高齢患者さんを診る機会が多い整形外科の先生にもおすすめです。
序論 「歩けない」と「歩かない」は違う
I.歩行障害とは
1 歩行障害の分類
2 認知症における歩行障害の発生
3 認知症から歩行障害が加わるケース
4 認知症患者を歩かせることの危険性
5 医療におけるプロブレム・ファーストとは
6 抗酸化系薬剤─3番目の歩行改善薬
II.パーキンソニズム
1 神経伝達物質と歩行の関係
2 薬剤性パーキンソニズムの気づき
3 ドパミン阻害薬
4 抗うつ薬
5 パーキンソン病のアセチルコリン過剰仮説
6 パーキンソニズムで何を考えるか
7 パーキンソン病とは
8 脳血管性パーキンソニズム
9 パーキンソン病治療薬
10 コウノメソッドが推奨するパーキンソン病治療薬
11 パーキンソニズム治療の心得
12 二次性パーキンソニズムの治療
13 パーキンソン病治療薬の副作用に関するまとめ
14 proteinopathiesの分類法
III.レビー小体型認知症
1 “副作用多発疾患”としてのレビー小体型認知症
2 最優先される意識障害の治療
3 意識障害の治療の実際
4 患者を起こさないとどうなるか
5 意識障害の気づき― 視線を合わさない
6 リバスチグミンの性質と特徴
7 レビー小体型認知症の治療―総括
IV. 第3の歩行改善薬─抗酸化系薬剤
1 グルタチオン
2 ソルコセリル®
3 グルタチオンとシチコリンの関係
4 シチコリンハイテンションについて
5 抗酸化系薬剤の使い分け
6 シチコリンレスポンダー(シチコ組)の検索
V.神経難病の診断への道筋
1 コウノメソッド分類の活用
2 LPC(レビー・ピック複合)概念の活用
3 LPC症候群概念の活用
VI.進行性核上性麻痺
1 進行性核上性麻痺の特徴
2 進行性核上性麻痺の7タイプ
3 進行性核上性麻痺の画像所見
4 進行性核上性麻痺の症候
5 進行性核上性麻痺の治療
VII.歩行障害系認知症の治療理論
1 歩行障害系認知症の鑑別診断
2 歩行障害系認知症の治療
3 歩行障害系認知症の妄想・幻視の治療
4 レビー小体型認知症と思われる患者の妄想・幻視の治療
VIII.大脳皮質基底核変性症
1 大脳皮質基底核変性症の診断
2 大脳皮質基底核変性症の画像所見
3 診断の具体例─診断までの道筋
4 大脳皮質基底核変性症とほかの認知症責任疾患の合併
5 大脳皮質基底核変性症の改善例
IX.脊髄小脳変性症
1 小脳と認知機能
2 脊髄小脳変性症の見方
3 まどわされやすい無症候性小脳萎縮
4 脊髄小脳変性症の良性・悪性の区別と認知症の合併
5 皮質性小脳萎縮症の治療
6 多系統萎縮症の概要と治療
7 遺伝性脊髄小脳変性症
X.正常圧水頭症
1 正常圧水頭症の概要
2 無症候性正常圧水頭症
3 脳室拡大型脳萎縮と脳室の大きくない正常圧水頭症
4 変性疾患とのリンクか続発性正常圧水頭症か
5 症例紹介
XI.硬膜下血腫・水腫
1 硬膜下血腫・水腫のCT画像
2 脳萎縮と硬膜下血腫・水腫の鑑別方法
3 ピック病と慢性硬膜下血腫・水腫
XII.その他の歩行障害系疾患
1 アルコール関連認知症
2 脳血管性認知症
3 筋萎縮性側索硬化症
XIII.フロンタルアタキシア
1 歩行に必要な前頭葉の指令
2 前頭葉機能と疾患・病態の関係
3 歩行改善のための治療戦略
XIV.整形外科的疾患
1 脊柱管狭窄症と変性疾患の合併
2 整形外科的疾患と認知症の合併
XV.コウノカクテル配合の調整方法
1 ツープラトンシステムによる配合の調整
2 保険診療の範囲で行うコウノカクテル
3 コウノカクテルの配合調整による改善例
コラム
家族こそが認知症の“名医”
ガランタミン,リバスチグミンで出現した謎の嘔吐は内科合併症が原因だった
紛らわしい名称の多いレボドパ配合薬
祖父江逸郎先生との思い出
アセチルコリン-ドパミン天秤の復習
MIBG心筋シンチグラフィの解釈
認知症は釣鐘状の薬剤反応性を示しやすい
リバスチグミン9mgが最適と思われた高齢者2例
コウノメソッド実践医とは
フェルラ酸含有食品の概要
進行性核上性麻痺との出会い
進行性核上性麻痺の第3期にみられるCT所見
進行性核上性麻痺の患者家族をサポートする資料
前頭側頭葉変性症(FTLD)の復習
急に歩行できなくなった77歳男性。大脳皮質基底核変性症を想起したが…
3年間診断できなかった「自律神経失調」の原因
皮質性小脳萎縮症と前頭側頭葉変性症の合併例
コウノカクテルの配合変更で改善した正常圧水頭症の例
飲酒は硬膜下血腫・水腫のハイリスク
看護師のモチベーションアップは好循環を生む
コウノメソッド実践医からの報告
(1)介護施設でシンメトレル®ロケットの効果を実感
(2)腎機能障害があるときはアマンタジンを1日100mg未満に
(3)ペルゴリドはやはり少量で使ってみたい
(4)シチコリンによるハイテンションの経験
(5)あなどれないシチコリン250mgの効果
付 録
索 引
歩行障害という語彙で検索すると,そのような題名の医学書はきわめて少ないことに驚きます。たとえば神経内科では,歩行障害はイコール,パーキンソニズムということになってしまっているのではないかと推測します。もしそうだとすると,歩行障害の患者というのは整形外科,脳神経外科,血管外科による外科的治療やリハビリテーションの世界で扱われ,薬物治療としてはパーキンソン病(PD)治療薬,抗血小板療法ぐらいしか戦術がないということではないかと感じました。
筆者は,ドパミン賦活戦略に加えて,抗酸化系薬剤で認知症と神経難病の歩行を改善する方法があるということを知り,それを広めるためにこの本を書くことにしました。3年前だったら思いもよらなかった本です。
コウノメソッド(筆者が提唱する認知症薬物治療マニュアル)の武器は年々増えてきたわけですが,共和病院勤務時代に覚えたのが,ピック病の陽性症状に対するクロルプロマジン,レビー小体型認知症(DLB)の傾眠に対するシチコリン静注でした。
ある日,アンチエイジング医療を得意とする臨床医からメールがきました。DLBの患者がドネペジルの副作用で非常に苦しんでいたため,コウノメソッドを参考にドネペジルを中止すると同時に,アンチエイジングの世界で使われていたグルタチオン高用量点滴を応用したところ,抜群に歩行が改善したことを教えてもらいました。グルタチオン高用量点滴は,20年も前から知られていたということで,筆者はそれを知らなかったことを後悔しました。
抗酸化系点滴療法は,マイヤーズカクテル(米国)に始まり,柳澤厚生先生によって日本に導入されていましたが,歩行を改善する物質グルタチオンはマイヤーズの時代には使われておらず,歩行には抜群に効果的です。
2014年1月から筆者はグルタチオン点滴を始め,DLBの歩行が15分で明確に改善することに驚きました。そもそもPDに試されて始まったグルタチオン点滴ですから,それに似たDLBには当然効くだろうと思いましたし,進行性核上性麻痺(PSP)にもパーキンソンタイプというのがあるくらいですから効くだろうと思い,歩けない患者にはできるだけ試すことにしました。
10年歩けなかった脊髄小脳変性症でも点滴後15分で歩きました。アルコール関連認知症,正常圧水頭症,脳血管性認知症にも効果がありました。唯一効きにくいのは大脳皮質基底核変性症(CBD)だけでした。
グルタチオン点滴は当初は単剤で行っていましたが,やがてシチコリン,幼牛血液抽出物(ソルコセリル®)も併用し,コウノカクテルとして患者個々によってそれらの配合を変える知恵を備え,2年間でコウノカクテルの長所・短所をこうして読者に伝えることができるようになりました。効かないからといってすべての用量を同時に増やすと,むしろ弊害が起きうる不思議な現象についても解説しています。
コウノカクテルを始める前は,歩行セット(コウノメソッドにおいて歩行障害を呈する患者で第一選択となる薬剤とサプリメントの組み合わせ)はリバスチグミン+フェルラ酸含有食品だけでしたし,シチコリン静注は,覚醒はできても歩行までは改善できませんでした。
コウノカクテルの改善例を筆者が以前運営していた「認知症ブログ」で毎週報告していくうちに,PD治療薬を投与されていて調子が悪いという「歩行障害系認知症」の患者さんが徐々に来院してくれるようになりました。そのおかげで稀な疾患そのものを覚えることができましたし,ほとんどの患者は改善できました。中でも44歳の遺伝性脊髄小脳変性症である歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮症(DRPLA)は初めて診ましたが,歩行を改善でき,今でも元気に通院されています。
筆者に限らずコウノメソッド実践医は,神経内科出身でもないのに,稀な難病を診る機会が与えられ,それを改善できるというのは,臨床医として無上の喜びとなっていることでしょう。
というのは,筆者のクリニックに難病が集まり,その方々を地元の実践医に紹介するので,実践医は患者によって疾患を学習し治療法を覚えられ,次の同じ疾患の症例が筆者を経由せずに直接初診したとしてもすぐに診断できて治せます。
歩行セットにグルタチオン点滴を加えたものを変性疾患セットと呼び,認知症を伴う歩行障害には高い改善率を示します。
薬の副作用で発生した高度なジスキネジアも,少し時間はかかりますが,治せるようになりました。その際,数あるPD治療薬の中から推奨薬を絞ってコウノメソッドで紹介してきたことは正しかったことも証明できました。つまり前医の薬を推奨薬に代えることでジスキネジアは自動的に消失していったのです。
2016年3月13日,第2回認知症治療研究会で筆者は,「歩行障害系認知症への対応」という演題名で基調講演を行いましたので,その内容を骨格として解説していきたいと思います。
この本には,多系統萎縮症(MSA)の話も出てきます。「小脳疾患なのに,なぜ認知症の医学書に出てくるのか」と疑問をもたれるかもしれません。文献を調べてみると前頭葉と小脳は切り離せない関連があるようです。
そして,PD治療薬以外の薬や物質が,なぜ歩行を改善させるのかという答えのひとつに「フロンタルアタキシア」という重要な概念が浮かび上がってきました。前頭葉機能の重要性は,この本の後半で大きく広がってきます。
FG療法(グルタチオン点滴+フェルラ酸含有食品)は,認知症以外の難病(膠原病,神経変性疾患,小児精神疾患)にも有効ですが,それはまた別の機会に症例数を増やして解説していく予定です。
2017年2月 著者