高齢者の身体的フレイルの主な原因は,サルコペニア,低栄養,ポリファーマシーであり,これらへの対応が重要である。高齢者の食欲不振の原因は多様であるが,特にカヘキシア(悪液質),抑うつ状態,ポリファーマシー,味覚障害を見落とさないことが重要である。
カヘキシアのAWGC(Asian Working Group for Cachexia)診断基準を表に示す1)。これらを認める場合には,カヘキシアなら運動・栄養・薬物・心理療法による包括的対応,抑うつ状態なら薬物・心理・運動療法などによる包括的対応,ポリファーマシーなら薬剤調整,味覚障害なら薬剤調整と亜鉛投与など,原因に見合った対応を行う。本症例ではこれらを認めなかったため,漢方薬による治療を行った。
食欲不振だけでなく易疲労性や覇気のなさが目立つ場合には,補中益気湯,人参養栄湯,十全大補湯を使用する方がよい。しかし本症例は,軽度の疲労感を認めたものの覇気があり身体活動を行えていたため,食欲不振の改善を期待して六君子湯を選択した。
六君子湯は,食思不振や胃食道逆流症に伴う症状に対して用いる。機能性由来の急性消化不良症状を有するドイツ人患者66名(平均年齢48.9歳)を対象に六君子湯を2週間使用した前向き多施設研究では,ディスペプシア症状の全般的治療効果が78.9%と高かった2)。
本症例は1週間で食欲不振への効果を認めたが,少なくとも2週間は使用を継続して効果判定することが望ましい。六君子湯を2週間使用して食欲不振が改善していなければ,補中益気湯,人参養栄湯,十全大補湯への変更を検討する。それでも改善しない場合には,がんなどカヘキシアの原因疾患とカヘキシアの可能性を含めて食欲不振の原因の診断推論を再度行う。