著: | 野中 猛(日本福祉大学教授) |
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判型: | A5判 |
頁数: | 168頁 |
装丁: | 2色刷 |
発行日: | 1998年06月25日 |
ISBN: | 4-7849-8026-1 |
版数: | 第1版 |
付録: | - |
在宅高齢者ケアにまつわる精神科的問題解決のためのエッセンスを詰め込みました。問題となる行動や症状に直面したとき,すぐに役立つよう,50項目にしぼりこみ,わかりやすく解説しています。
単なる事例解説ではなく,scene→advise→informationという流れの中でケアマネジメントの技法と精神が理解でき,在宅での難しい対応に自信が持てます。
かかりつけ医,訪問看護師の方におすすめです。
わが国における1998年現在の老年人口は、国民全体の16。0%である。この数字は今後も上昇して2010年頃には世界一になると予測されている。わが国の特徴として、この高齢化の速度が急激である点に加えて、地域社会の支援体制を新たに作り出すまでに至っていない。
高齢者保健福祉推進十か年戦略(ゴールドプラン)が始まった1990年以来、高齢となった人々の健康と生活を支援するために、医療、保健、福祉など、さまざまな領域で整備が進んでいる最中である。また、誰もがそうであるように、高齢者は身体心理社会的な存在であり、生じた困難も、それに対する解決も、ひとつの要素で規定されているわけではない。これは、一人の高齢者を理解するためには多面的な視点をもつことと、支援のためには多領域の人々の力が必要であることを意味している。
本書は、高齢になった人々に対する支援のうち、主に精神保健領域の視点を整理し、特に連携の方法に重点をおいて、実際の臨床場面に有用な知見を記述したものである。そのため、一方では老年精神医学のわかりやすい実用書という側面と、他方では高齢者を対象とするケアマネジメントの実際を学ぶ副読本という意義があろう。
想定する読者の対象は、地域で高齢者の健康と生活を守る多くの専門職である。保健婦(士)や看護婦(士)を中心に、理学療法士や作業療法士、社会福祉士や精神保健福祉士、介護福祉士やヘルパーにもわかりやすく、一方で医師の方々にも参考になるだけの内容を盛り込んだつもりである。そのために、ケアマネジメント会議の場面事例を紹介して、それに対する解説と関連情報を紹介する形式を試みた。各項目はそれぞれ独立しており、とりあえず関心のある部分から読みはじめることが可能である。なお、場面事例では「おじいさん、おばあさん」の呼称を用いているが、日常臨床では、名前を呼ぶなど尊厳のある関係性を保ちたい。
それにしても、個人的な狭い臨床経験が基になっているため、起こり得るすべての場面や事例を網羅しているわけでもなく、大いに限界があるものと思う。問題の焦点を見定めた後に、詳しい参考書にあたっていただきたい。さらに重要な作業は対話である。本人やその家族と語りあい、周囲の人々から意見を聞き、各領域の専門職の方々の知恵を借りることから、生じている事態の理解が深まり、解決の発想がわいてくるであろう。
高齢者や障害者をめぐる社会的支援において、今もっとも求められる要素は、さまざまな領域の、さまざまな立場の人々が力をあわせることとその技術である。本書を参考に、あるいは他山の石として、高齢者を支援する臨床を大いに展開して下さることを期待する。
1998年5月