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緩和領域におけるせん妄の薬物療法【抗精神病薬は有効なのか?】

No.4915 (2018年07月07日発行) P.55

佐伯吉規 (がん研究会有明病院緩和治療科医長)

登録日: 2018-07-10

最終更新日: 2018-07-03

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せん妄の薬物療法として,長年精神科臨床の場では「抗精神病薬を第一選択とする」と考えられてきた。しかし,緩和ケア領域におけるせん妄への抗精神病薬の有効性を検証した研究は少ない。

Agarら1)は治癒困難な疾患(88.3%ががん患者)の247人のせん妄患者を対象に,リスペリドン群,ハロペリドール群,プラセボ群(すべて経口投与)にわけた二重盲検試験を行った。薬剤投与72時間後のMDAS(memorial delirium assessment scale)をはじめとする評価尺度の改善度は,プラセボ群が抗精神病薬投与群に比して有意に高く,抗精神病薬投与群は試験終了後の予後が短かった,という驚くべき結果であった。

一方,Huiら2)による,興奮性を有するせん妄を呈したがん患者58人を対象とした二重盲検試験では,ハロペリドール単剤群,ハロペリドール+ロラゼパム注射併用群において,後者のほうが8時間後のMDASの改善度が有意に高く,攻撃性の評価のRASS(Richmond agitation-sedation scale)でも同様の結果が得られた,と報告し,せん妄に対する抗精神病薬とベンゾジアゼピン系薬剤の併用療法の優位性を述べた。

Huiらの報告はAgarらの報告に比して,対象が若年であり,緩和領域のせん妄に対し,一概に抗精神病薬にベンゾジアゼピン系薬剤を用いればよい,とは断言できない。向精神薬の選択については,クエチアピンなど低力価抗精神病薬も加えたさらなる検証が待たれるところである。

【文献】

1) Agar MR, et al:JAMA Intern Med. 2017;177(1): 34-42.

2) Hui D, et al:JAMA. 2017;318(11):1047-56.

【解説】

佐伯吉規 がん研究会有明病院緩和治療科医長

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