「最大の課題は、少子化対策です」。担当分野の1つは周産期・乳幼児保健だ。出産しやすい環境、子どもが健やかに育つ環境の整備を求めている。「実際に産婦人科で診療していても、妊娠する年齢が上がっているのを感じます。結婚しない方も増えていますね。小児虐待の件数も増加傾向にあり、対策を打たなければなりません」
問題視しているのは、健診の実施主体や目的がライフステージによって異なることだ。「妊娠期から乳幼児期、学童期、思春期まで一貫して成育過程をみていく仕組みにすべきです」。こうした考えに基づく「成育医療等基本法」の次期国会での成立に期待する。「国がよりよい小児・周産期医療のあり方を考え直す機会になるのではないかと思っています」
HPVワクチンの積極的接種勧奨再開への道筋も探る。「今でも、子宮頸がんで亡くなっていった方々の顔が目に浮かびます」。産婦人科医として、今まで数多くの子宮頸がんの患者を治療してきた。「HPVワクチンは、唯一子宮頸がんを予防できる方法だと国際的に確信をもって受け止められています。科学的な有用性の理解を求めつつ、副反応の懸念に悩む方や不安を抱く国民の気持ちに寄り添い、向き合える体制を整備する必要があります」
日本医師会は10月、日本医学会と合同で公開フォーラムを開催する予定だ。「前回フォーラムを開催したときよりも、ワクチンに対する社会の考え方が冷静になっていると感じています」。国際的には9価のワクチンが標準となっている。「HPVワクチン積極的接種勧奨再開の社会的合意を得ることと、日本も新たなワクチンの検討に踏み出してほしい」と願う。
先端医療の課題も山積みだ。「画期的な治療を可能にしたいと思う反面、安全性や倫理性のチェックも重要です」。国は再生医療や生殖医療などに関する研究について、ルールの整備を急いでいる。平川さんの責任意識は強い。
ES細胞は、ヒトの受精胚を滅失して作られることから、適切な取扱いについて、国がルールを定めている。
提供者の気持ちを踏まえつつ、再生医療を適切に進めるためにも、正しい倫理感に基づく判断が求められる。
また、ヒト受精胚へのゲノム編集技術等を用いる研究のあり方について総合科学技術・イノベーション会議「生命倫理専門調査会」で検討を行っている。
ゲノム編集技術は遺伝性の病気の治療などにつながると期待される一方で、安全性が確立されていない中、安易に臨床応用されるリスクを有している。
医療団体の代表として、適切な医学研究のあり方について、慎重な議論を進めている。
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1990年には病理学の研究員として渡米した。「当時の産婦人科の研究分野は、がん、ホルモン、お産の3つでした。お産の研究をしたい気持ちもありましたが、教授からの勧めもあり、がんの研究を選びました」