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人生100年時代の医療[炉辺閑話]

No.4941 (2019年01月05日発行) P.46

永廣信治 (徳島大学病院病院長)

登録日: 2019-01-03

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世界の平均寿命は女性が85歳、男性は80歳を超え、日本はさらに3~4歳上にある。『100年時代の人生戦略─ライフ・シフト』(リンダ・グラットン、他著)によると、過去200年間の平均寿命は10年ごとに2~3年ずつ直線的に伸び、2007年に生まれた日本人の半数は107歳まで生きるとされている。長生きを恩恵とするためには健康寿命の延伸が重要であるが、現在の健康寿命は平均寿命より10歳ほど下回っている。

人生100年時代の医療はどのようにあるべきか。筆者の専門とする脳神経外科領域においても、以前は行われなかった80歳以上の脳腫瘍治療も、健康寿命を考慮し、腫瘍の種類や手術の難易度によって積極的に行う場合がある。90歳以上のくも膜下出血であっても、状態によっては脳動脈瘤の処置を行う。これはカテーテルを用いた脳動脈瘤コイル塞栓術などの低侵襲治療法が進歩したことにもよるが、心身ともに元気な高齢者が増えていることも事実である。

一方、外傷性急性硬膜下血腫などの重症頭部外傷の最大原因が、交通外傷から転倒事故に変わったことも、超高齢社会の到来による変化である。加齢に伴う身体フレイルや、ロコモティブシンドロームが増えると、病院内でも容易に転倒事故が起こる。転倒後に意識があり大丈夫と思っていると急激に意識が悪化し、頭部CTで急性硬膜下血腫と診断され、救命のために緊急手術が必要なこともあり、注意を要する。

高齢者は脳が萎縮し硬膜下空間が広く、軽い転倒でも、回転加速度で容易に架橋静脈が切れ、虐待児やスポーツ頭部外傷などと同じ機序で硬膜下血腫をきたすのである。転倒直後には異常がなくても、2~3カ月後に認知障害や神経症状をきたす場合は、慢性硬膜下血腫が疑われる。慢性硬膜下血腫であれば、100歳であっても局所麻酔で血腫を除去するだけで認知症が治るので、見逃してはならない。

病院も人生100年時代にあたり、様々な対応が求められている。当院では一般人を対象に医療、健康などを学ぶ「人生100年ライフ・シフト大学」を開校し、健康長寿のための人材育成を開始した。

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