ちまたでは人生100年の時代が来ると言われている。2018(平成30)年9月時点で、100歳以上の日本人は7万人弱であるが、日本人の約半数が100歳まで到達するのではないか、という予測である。確かに、日本人の平均余命は年々伸び続けており、男性81歳、女性87歳を超えているが、1955(昭和30)年には男性63.6歳、女性67.75歳であり、60年間で20年近く男女とも長生きするようになったということである。このような変化は人類の歴史では初めてであろう。
日本老年学会・日本老年医学会の高齢者の定義に関する定義検討ワーキンググループによる報告によれば、日本人の高齢者は歩行速度、脳機能など医学的な側面からの解析により10歳程度若返っていることが示唆されている。確かに、以前であれば治療することができなかった病気も、医学の進歩により予後を大幅に改善できる時代になった。
2018年のノーベル賞に関連するオプジーボ®により、進行がんから救われた人も数多くいると聞く。今後はiPS細胞などを用いた再生医療についてもその成果が期待されているところである。このように、寿命の延伸に関連するポジティブな側面が数多く報告されているが、若い世代の肥満の増加、生活習慣病の増加、また女性におけるやせの問題やビタミンD不足などは、将来的な動脈硬化性疾患の増加や骨粗鬆症、サルコペニアによる転倒・骨折の増加といった懸念を感じさせる。また、これら生活習慣病や骨粗鬆症、サルコペニアはフレイルのリスクの増加につながる可能性があり、要介護のリスクの上昇も懸念される点である。
すなわち、人生100年時代を迎えるためには、若年からの食育や生活習慣がきわめて重要であり、その克服により真に人生100年の時代を迎えることができるように思う。その際には、定年をどうするか、定年後の人生設計をどうするか、いつまでも高齢者が活躍できる社会の構築など、様々な問題の克服をしなければならないであろう。
筆者が生きている間には人生100年の時代は来ないであろうが、老年医学・老年学を専門とするものとして、その準備には力を尽くしていきたい。