認知症の実臨床におけるクリニカルシークエンスの実情(年間の症例数や,クリニカルシークエンスから治療につながる例など)と,認知症特有の遺伝カウンセリングの難しさなどがあれば教えて下さい。
新潟大学脳研究所・池内 健先生にご回答をお願いします。
【質問者】
新飯田俊平 国立長寿医療研究センター メディカルゲノムセンターセンター長
【症例の蓄積は重要だが,遺伝子診断は慎重に行うべき】
アルツハイマー病を含む認知症の多くは多因子性疾患であり,孤発性に発症することが多いですが,一部の認知症は家族性に発症することがあります。頻度としては稀ですが,単一の遺伝子変異を原因とし,常染色体優性遺伝形式をとる家族性認知症が知られています。常染色体優性遺伝性アルツハイマー病の原因遺伝子としてはAPP,PSEN1,PSEN2の3つが知られています。これらの遺伝子に変異が同定されれば,家族性アルツハイマー病の診断は確定されます。アルツハイマー病以外にもレビー小体型認知症,前頭側頭葉変性症,血管性認知症,大脳白質型認知症にも単一遺伝子の変異を原因とする病型があり,遺伝子解析による確定診断が可能です。
このような臨床診断に貢献しうる遺伝子診断は,クリニカルシークエンスと呼ばれています。筆者の施設では,全国の医療施設とネットワークを構築し,認知症性疾患のクリニカルシークエンスを日本医療研究開発機構(Japan Agency for MedicalResearch and Development:AMED)からの支援を受け,実施しています。2016年度は287例,2017年度は307例のクリニカルシークエンスを,インフォームドコンセントに基づいて実施しました。遺伝子診断を行った症例の約1割に原因となる遺伝子変異が同定し,確定診断に貢献しました。複数の家系員から協力が得られる場合,網羅的に遺伝子を解析するエクソーム解析により,原因変異にたどり着けることがあります。中には疾患特異的に有効性を示す治療法につながる診断例を経験しており,未診断の認知症においてクリニカルシークエンスにより原因を特定し,有効な治療法につなげる症例を蓄積する重要性を感じています。
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