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【OPINION】再生医療を実施する自由診療クリニックに対する民事訴訟─明らかになった実態と残った問題

No.4766 (2015年08月29日発行) P.14

一家綱邦 (京都府立医科大学法医学教室)

八代嘉美 (京都大学iPS細胞研究所上廣倫理研究部門)

藤田みさお (京都大学iPS細胞研究所上廣倫理研究部門)

池谷 博 (京都府立医科大学法医学教室)

登録日: 2016-09-08

最終更新日: 2017-02-13

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  • はじめに─本稿の目的

    2015年5月15日、東京地方裁判所は、東京都内のクリニックが自由診療で提供する再生医療を受けたが、その効果がなく、むしろ身体状況が悪化したことを理由に、患者が損害賠償請求(慰謝料と治療費の返還)を求めた訴訟において、治療費全額に当たる134万1186円と慰謝料50万円の支払いを被告側クリニックに命じた1)。筆者らの調べる限り、再生医療を実施する自由診療クリニックに対して患者が損害賠償を求めて民事訴訟を提起し、その訴えが認められるのは日本で初めてである(世界的にも前例がないと推測される)。

    京都府立医科大学法医学教室は、京都ベテスダクリニックでの幹細胞投与後死亡事故を司法解剖して以降、再生医療を自由診療で行うクリニックの問題を継続的に検討してきた2)。本事件・判決の紹介は、そのようなクリニックの実態を明らかにする。

    裁判所が認定した事実

    原告X(1944年生、女性)は慢性腎不全の患者であり、2007年に中国で腎移植手術を受けた。その後大学病院の泌尿器外科に通院し、腎移植後の拒絶反応に対する免疫抑制治療を継続的に受けている。

    2012年5月某日、Xは某美容形成外科クリニックを受診し(腎不全等とは無関係)、被告Y1の診察を受けた。その際Y1はXが長年の身体の痺れに苦しむことを聞き、幹細胞治療による症状改善の可能性、車椅子使用者が歩行可能になった実例の存在、Y1が勤め、被告Y2が開院するクリニックでの実施可能性を説明した。その8日後にXは被告クリニックを訪れ、幹細胞治療を受けることを決定した。

    ところが、その後の血液検査の結果、XがB型肝炎ウイルスに感染していることが判明した。Y1はXに電話でその検査結果とともに、Xの細胞を用いる自家幹細胞治療はできないが、第三者の体性幹細胞を用いる他家幹細胞治療は可能であること、Xの自宅にて同治療を実施することを説明し、同意を得た。XはY2との間に幹細胞治療契約を締結し、7月某日に治療代金134万円1186円を支払った。その翌日、Xは第三者の脂肪細胞由来の間葉系幹細胞を培養して作成した細胞製剤の点滴投与を受けた。だがその後もXの痺れ症状は改善せず、むしろ悪化した。

    なお、XはY1が交付した「私は…事前説明書に基づいて説明を受け、その内容を十分に理解し、納得しました」「その結果、私の自由意志に基づき本療法を受けることに同意します」と記載のある同意書に署名した。その「事前説明書」には自家幹細胞治療の内容や手順の他に(a)アナフィラキシー反応や肺塞栓等の合併症の可能性があること、(b)投与された幹細胞の不測の変化の可能性があること(免疫不全マウスを用いた実験では腫瘍化等の異常は発生していないこと)、(c)その他不測の合併症の可能性もゼロではないが、適切な対応をすること、(d)小動物では肺塞栓死亡実験例があり、人においても1事例死亡報告があることが記されていた。

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