手術のメスを置いた齢になって、外科医の技術的訓練と評価に関心がある。
昭和の時代には、若い外科医の修練は部長や教授などの助手として多くの手術に参加することであり、術者としての機会はほぼ無いままに昇進して初めてその機会が与えられる、という状態であった。「手術を見て、技術を盗め」が常識であった。
平成になって医療事故が社会問題となり、外科医の技術過誤が糾弾され、また、高齢化社会が訪れると、低侵襲手術等の訓練が重要となった。内視鏡手術が進歩し、「ドライラボ」と称せられる模型を用いた練習や、ブタの心臓や肝臓を用いる「ウェットラボ」の訓練も広く行われるようになった。外国では御遺体を利用させて頂く手術訓練が行われてきたが、わが国でも法的に承認され、多くの大学で始まろうとしている。特に、ロボットを用いる新しい手術の多くが保険に収載され、急速な普及がみられる中で、心臓領域でも御遺体を用いた訓練が必須となり、現在は韓国、台湾の先生方と連携して行わせてもらっている。間もなく国内でも可能となる予定である。現在は手術現場でなくoff-the-job-trainingが重視され、多くの学会で取り組まれている。
ロボット手術は5G通信システムを用いることにより遠隔手術(Telesurgery, On-line Surgery)が可能となる。異なる場所にいるベテラン術者と訓練医が2人参加してコンソール術者として手術を行うことが可能となるため、手術の安全性確保には役立つ。厚生労働省も5Gシステムを用いた医療改革を進め、日本外科学会も積極的参画を示している。さらに、最近のAIの進歩に伴いロボット手術が半自動化して行いうる可能性も出てきた。この前段階として、バーチャル・リアリティ(VR)を用いて、あたかも現実の人の手術と同様に仮想手術を行うシミュレーション訓練も始まっている。令和時代には患者のCT等から作製した三次元画像をVR化し、現実と仮想空間の複合(混合リアリティ)の作製が可能となった。また、3Dプリンターを用いて複雑病変のレプリカを作製し、手術の予行演習を行うことが可能となり、さらにレプリカを作製せずともXR(拡張リアリティ)像として術前訓練も可能となってきた。
昭和の我々は、頭の中で仮想イメージングしていたものが、令和時代には当該患者の術前手術予行がVR~XR上でできるであろう。技術レベルの低さによる医療事故は皆無になるべきものである。