抗PD-1抗体であるオプジーボⓇ(一般名:ニボルマブ)が初めて保険適用となったのが2014年。世界で初めて、本邦の悪性黒色腫で使われた。その効果はお墨付きで、悪性黒色腫が治る時代が到来した、と思った。
悪性黒色腫でのオプジーボⓇの奏効率は約40%。高い確率で効果が出る、と報告されている。しかし、これは海外のデータであり国内では20〜30%とやや低い。海外と国内の奏効率の違いの原因として、悪性黒色腫の型の違いが指摘されている。欧米で多い悪性黒色腫は、露光部や非露光部を含め皮膚に多い。一方、日本人を始めとするアジア人では、手足などにできる末端黒子型が40〜50%を占める。さらに、欧米では数%と報告されている粘膜型が日本人では10〜20%と高い。
オプジーボⓇを始めとする免疫チェックポイント阻害剤は、体細胞変異(mutation burden)の数が多いほど効果を発揮することが報告されている。がん細胞に変異が多いほど、ネオアンチゲンとなりT細胞の攻撃を受けやすい。オプジーボⓇがT細胞の機能を強化するため、変異が多いほど効果を発揮する。
この変異数は、免疫チェックポイント阻害剤のバイオマーカーとして報告されている。実臨床で使用するにはまだ時間が必要だが、多くの論文で体細胞変異の数とオプジーボⓇの治療効果に相関があると指摘している。
さて、日本人に多い末端黒子型や粘膜型に関していうと、残念ながら体細胞変異が圧倒的に少ない。欧米人に多い皮膚型の悪性黒色腫と比べると、全く違う遺伝子変異パターンを有する。この遺伝子変異の違いが、オプジーボⓇの治療効果の違いを反映していると考えられる。
悪性黒色腫は若い患者さんが多い。今日も悔しさと悲しみでいっぱいのまま、1人の女性を見送った。悪性黒色腫はいまだ治らないがんである。戦いはまだ始まったばかりなのだ。
大塚篤司(京都大学医学部外胚葉性疾患創薬医学講座特定准教授)[皮膚科][免疫チェックポイント阻害剤]