著: | 渡辺晋一(帝京大学医学部名誉教授) |
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判型: | B5判 |
頁数: | 240頁 |
装丁: | カラー |
発行日: | 2019年05月31日 |
ISBN: | 978-4-7849-5655-5 |
版数: | 第1版 |
付録: | - |
1章:湿疹・皮膚炎とは
2章:アトピー性皮膚炎とは
3章:アトピー性皮膚炎の治療
4章:正しい外用薬の使い方
5章:アトピー性皮膚炎に対する新しい治療
6章:アトピー性皮膚炎に合併する感染症対策
7章:最後に
1章:湿疹・皮膚炎とは
1.外因性の湿疹・皮膚炎とは
2.内因性の湿疹・皮膚炎とは
2章:アトピー性皮膚炎とは
1.アトピー性皮膚炎の概要
3章:アトピー性皮膚炎の治療
1.難治性となったアトピー性皮膚炎患者に対し当科で行った治療とその治療成績
2.難治性アトピー性皮膚炎となった患者がそれまでに受けていた治療とその治療法に対する検証
4章:正しい外用薬の使い方
1.どの外用薬を選択するか
2.ステロイド外用療法
3.正しい外用方法
4.ステロイドを使用しても,良くならないときに考えること
5.プロアクティブ療法
6.アトピー性皮膚炎を含む湿疹・皮膚炎の治療原則
5章:アトピー性皮膚炎に対する新しい治療
1.ステロイド外用薬以外の薬剤
6章:アトピー性皮膚炎に合併する感染症対策
1.伝染性膿痂疹との鑑別
7章:患者の願う医療とは
序文
私は日本で初めてのレーザー外来を帝京大学病院皮膚科に開設し,また皮膚真菌症治療の研究を行っていたので,皮膚真菌症やレーザー治療を求めて来院する患者を多くみてきた。しかし10年ほど前から,このような患者ばかりでなく,インターネットを頼りに都内はもちろん,地方からも私の治療を求めて来院する患者が多くなった。診察すると,その半数近くが難治性となったアトピー性皮膚炎患者である。私が皮膚科に入局した40年前は,重症アトピー性皮膚炎患者はほとんどいなかった。ところが,「脱ステロイド療法」が提唱されるようになってから,重症アトピー性皮膚炎患者が増えてきた。その後,脱ステロイド療法の見直しが行われ,重症アトピー性皮膚炎患者が減るのかと思われたが,また再び重症アトピー性皮膚炎患者が増えてきた。
これらの患者は皮疹のため,生活に支障をきたすことが多い。特に女性では顔の皮疹を化粧でごまかすことが困難となり,外出できなくなった患者もいる。さらに見た目の問題だけでなく,痒みのために夜も寝られず,精神的にも追い込まれている患者も多く,中には会社を休んだり,仕事をやめた患者もいる。しかもこれらの患者は,長年大学病院や複数の皮膚科で治療を受けていた患者ばかりである。そしてこれらの患者が受けていた治療をみると,いずれも共通した特徴があった。それは保湿剤を全身に外用したあとにステロイドを患部だけに外用するとか,あるいはステロイド外用薬を保湿剤と混合して使用するなど,今までの皮膚科教科書には記載がなく,しかも世界標準治療のステロイド外用療法とは異なるものであった。このようにステロイド外用薬を保湿剤で置き換える「減ステロイド療法」は,かつての脱ステロイド療法に近いものであるが,このような外用療法が全国各地で行われている。
このような治療を受けていた難治性アトピー性皮膚炎患者を,最も強力なステロイド外用薬で治療すると,2〜3週間程度で良くなり,痒みも劇的に消失し,そのあとのコントロールも容易となる。さらに患者からは非常に感謝される。このことから世界標準治療である適切なステロイド外用療法を行えば,アトピー性皮膚炎が難治となることはほとんどないことがわかった。つまり,これらの治療の多くは,アトピー性皮膚炎に対する二重盲検比較試験が一度も行われることなく(動物実験データはあるが)提唱された,利益相反に基づいた治療法であると筆者は考える。そこで難治性アトピー性皮膚炎で悩んでいる患者を救うべく,日本の皮膚科治療の問題点を指摘しようと試みたが,なかなか講演する機会が与えられなかった。製薬会社がサポートする講演会は全国各地で数多く行われているが,私のように皮膚科治療の問題点を指摘する講演にはスポンサーがつかない。それでも稀に地方の皮膚科医会からアトピー性皮膚炎治療の講演を依頼されることがある。しかし私の講演時間はたった1時間で,すべてをお話しすることはできない。また私の講演後に,聴衆から「ぜひ講演内容を本にして頂きたい」との強い要望があったため,この本を書く決心をした。
本書の構成は,最初に湿疹・皮膚炎の話から始めて,本題であるアトピー性皮膚炎の解説に移る。アトピー性皮膚炎の解説では,最初に皮膚科の教科書や日本皮膚科学会のガイドラインに記載されているアトピー性皮膚炎の診断について述べる。日本の診断基準は海外と多少異なる点もあるが,大きな問題はない。問題はアトピー性皮膚炎の検査や治療である。そこで日本で汎用されているアトピー性皮膚炎の検査を海外のガイドラインをもとに検証すると,ほとんど意味がないということになった。治療に関しては,難治性となったアトピー性皮膚炎でも,容易に寛解にもっていくことが可能であることがわかった。その後,難治性となった原因を探る目的で,患者がこれまで受けていた治療を問診やお薬手帳でわかる範囲内で調べた。そしてこれらの治療法が妥当であったかを,世界標準の皮膚科教科書や欧米のガイドライン,またコクラン・レビューで検証した。その結果,減ステロイド療法の問題点を明らかにした。さらに実際に診療してわかった患者側の想定できない治療行為や,医師側の想定できない治療行為(ステロイドバッシングなどを含む)に対する問題点も指摘し,アトピー性皮膚炎に対する正しい外用薬の使い方を示す。また今後日本でも認可されるアトピー性皮膚炎に対する新しい治療薬の治験データから,わかる範囲内でこれらの治療薬のメリット・デメリットを述べる。その後にアトピー性皮膚炎に合併しやすい感染症の解説をした。
アトピー性皮膚炎は患者の遺伝的な素因を変えることは困難であるが, 適切なステロイド外用療法を行えば, コントロールが容易な疾患である。アトピー性皮膚炎ばかりでなく湿疹・皮膚炎の治療を, 利益相反に基づいた治療(COI based treatment)から証拠に基づいた治療(evidence based treatment)に変えなければ,日本の皮膚科は存在意義を失ってしまう。実際,先進国の中で日本では重症のアトピー性皮膚炎患者が多いことが知られている。本書により,アトピー性皮膚炎で苦しんだり,悩んだりしている患者が少しでも減ることになれば,望外の喜びである。
2019年4月 渡辺晋一