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【識者の眼】「肺炎死亡の『正しい』恐れ方」岡本悦司

No.5003 (2020年03月14日発行) P.62

岡本悦司 (福知山公立大学地域経営学部長)

登録日: 2020-03-03

最終更新日: 2020-03-03

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日本人の死因で最も多いのはがん(悪性新生物)。これはおそらく小学生でも答えられる。では2位、3位は?となると、とたんに自信がなくなる人も多いのではないか?

正解は、2位は心疾患で、3位は2016年までは肺炎であった。2016年の死亡数は、1位の悪性新生物37万2986人、2位の心疾患(高血圧性を除く)19万8006人、そして肺炎は11万9300人で3位だった。ところが肺炎死亡は2017年に9万6841人に低下し、脳血管疾患(10万9880人)、老衰(10万1396人)に抜かれて5位に転落した。肺炎死亡は、人口高齢化に加えてその年のインフルエンザの流行状況によっても左右されるため、今後も順位は入れ替わりを続けていくことだろう。

少なくとも肺炎は、がんや心疾患に次いで多い死因であり、決して特殊なものではない。新型コロナウイルス関連肺炎による死者〇〇人という報道を見ると多くの人はパニックになる。しかし肺炎で生命を落とす人は年間約10万人もおり、自殺(約2万人)、交通死亡事故(約3700人)よりはるかに多いという簡単な事実を知れば、印象もずいぶん異なってくるだろう。

新型コロナウイルス感染症がいよいよ国内でも流行しだした。強力な感染力、潜伏期間が長い、無症候性ウイルスキャリアが存在する、重症化しやすい、等あらゆる点で新型コロナはインフルエンザよりはるかに強敵といえる。とはいえ、ウイルスそのものは新型でも、症状はインフルエンザと大きくは異ならず、肺炎も特異的ではないようである(むしろ、小児がインフルエンザに罹患した時に稀にみられる脳症などの中枢神経系合併症もあまり報告されてはいないようだ)。

肺炎死亡の2016年と翌17年の差は2万2459人にもなる。今後の流行と死亡数は予断を許さないが、もし2万人を超える死者が出たとしても数としては2016年に戻る程度ということになる。「今より2万人以上も肺炎死が多かった年に自分はどうしていただろうか」と自問することが、流行を前にしての「正しい」恐れ方といえないだろうか?

岡本悦司(福知山公立大学地域経営学部長)[新型コロナウイルス感染症]

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