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「離島・へき地で総合診療」希望する中堅・ベテラン医師のキャリアチェンジを支援[シリーズ・地域医療の未来を創る:長崎県]

No.5005 (2020年03月28日発行) P.12

登録日: 2020-04-01

最終更新日: 2020-04-10

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地域間の医師偏在問題をめぐって2020年度から「医師少数区域等で一定期間勤務した医師を評価する制度」がスタートするなど国レベルの対策が本格化する中、各地の自治体も、深刻化する医師不足・偏在問題に歯止めをかけようと独自の対策を積極的に検討・実施している。長崎県は、いわゆる医師少数県とは認められていないものの、県内の医師偏在が著しく、上五島医療圏は医師少数区域とされており、このエリアに限らず一部の市町は医師不在の危機に直面している。離島・へき地の公的診療所の常勤医師をつなぐための新たな施策「キャリア・デベロップメント支援事業」に焦点を当て、長崎県の独自の取り組みを紹介する。

長崎県には離島・へき地の医療を支える公的診療所が63カ所あり、うち33カ所は、地域住民の健康・医療を守るため常勤医師が必須とされている。この33カ所の医師の常勤体制をどう維持していくかが医師確保上の大きな課題の1つとなっている。

3月25日現在、常勤医師を急いで確保しなければならない診療所は2カ所(松浦市立福島診療所、佐世保市総合医療センター宇久診療所)あり、長崎大学病院に設置された「ながさき地域医療人材支援センター」が中心になって全国に募集情報を発信している。

診療の幅を広げるための研修の機会を提供

離島・へき地の診療所に勤務する医師は、地域住民の健康管理・医療に幅広く対応する能力が求められるため、キャリア形成の途上にある若手医師が担当するのは現実的に厳しい。しかし、総合診療の経験豊富な都市部の開業医が残りの人生を離島・へき地の医療に捧げるには、自分のクリニックを閉院するか別の医師に引き継がなければならず、それもハードルが高い。

最も現実的なのは、都市部の病院で専門医として経験を積んできた中堅・ベテラン医師に、地域を幅広く診る総合診療医に転身(キャリアチェンジ)してもらい、離島・へき地の医療に携わってもらうパターンだ。その場合、地域医療を実践しながら自分の診療の幅をうまく広げていけるかが最大の不安要素となる。

そこで長崎県が2017年度から制度構築に取り組み、公的診療所を抱える市町と連携して今年4月から本格的にスタートさせるのが「ながさきキャリア・デベロップメント支援事業」。離島・へき地の診療所の常勤医師として新たに赴任する中堅・ベテラン医師に対し、診療の幅を広げるための研修の機会を一定期間提供することで、総合診療医にスムーズに転身してもらうというのが事業の目的だ。

ながさき地域医療人材支援センターの髙山隼人センター長(長崎大学病院地域医療支援センター副センター長)は、支援事業を進める背景についてこう語る。
「学会等のブースで長崎県の地域医療のPRをしていると、先生方から『離島・へき地の医療を担ってみたいという気持ちはあるんだけれど、ずっと専門医としてやってきたので、専門領域以外の患者を診ることに不安がある』という話をよく聞くんです。実際に地域の公的診療所に勤めている医師の中にも『自分の専門領域以外のところを勉強する機会があるとよかった』という声があり、不安感を解消するための研修プログラムをつくらなければという話になりました」

「研修モジュール型」と「研修日型」を設定

センターを中心に研修プログラムの開発に向けた検討が重ねられ、研修は「内科」「外科」「整形外科」「小児科」の4領域の外来診療を学んでもらうことを基本とし、研修施設(地域の基幹病院)で一定期間連続して研修を受ける「研修モジュール型」と、診療所に勤務しながら週1回、研修施設で研修を受ける「研修日型」の2つの研修方法を設定することが決まった。

研修期間については、実際に勤務している医師から「3~6カ月あるといい」という声もあったが、その間も赴任してきた医師に市町が基本給を支出し続けることになるため、行政側から「6カ月は厳しい」という意見があり、「研修モジュール型」の研修期間は原則3カ月とした。実際には、研修を受ける医師が「内科(2カ月)」「外科(1カ月)」「整形外科(1カ月)」「小児科(1カ月)」から自分に合った組み合わせを選ぶことになる。

「事前に一定期間研修を受けないと不安という方には『研修モジュール型』、地域医療についてある程度自信があるが不安なところもあるという方には『研修日型』をおすすめしたいと思います。研修はすべて地域の基幹病院で受けていただきますが、その病院とは今後患者さんを紹介・逆紹介する関係になりますので、学びながら互いに顔見知りになってもらい、病診連携がスムーズにいくようにするという狙いもあります」(髙山センター長)

県は、研修を受ける医師が研修施設に移動する際の交通・宿泊の費用や、病院側の指導医の自己研鑽・スキルアップにかかる費用などを支援。事業の初年度となる2020年度は3人分の研修の費用を予算計上している。

常勤医師が不在になりがちなのは遠隔離島ばかりではない

髙山センター長によると、常勤医師が不在になりがちな診療所は必ずしも交通の不便な遠隔離島ばかりではない。

「現在募集している県北部の松浦市立福島診療所は、伊万里市と橋でつながっていて、必ずしも遠隔の離島ではありません。長崎市の近隣離島の診療所も最近まで採用が決まらない状態が続いていました。県内の公的診療所の多くが将来的に常勤医師不在になるリスクを抱えていると言っていいと思います」

離島・半島地域が大部分を占め、地形が変化に富む長崎県は、他県にない自然・文化の魅力を多く持っている。条件が整えばそんな地域で第2の人生を送ってみたいと考える中堅・ベテラン医師にとって、支援事業は大きな後押しになるに違いない。県の取り組みが、地域医療への志を持ちながらも不安感を拭えない医師が一歩踏み出すきっかけとなることを期待したい。

詳細・問い合わせ先:ながさき地域医療人材支援センター http://ncmsc.jp TEL:095-819-7346



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