小野 剛 (市立大森病院院長、一般社団法人日本地域医療学会理事長)
登録日: 2025-04-10
最終更新日: 2025-04-09
団塊の世代が75歳以上になる2025年が到来した。少子高齢化と人口減少が進む中、高齢者医療は今後の地域医療における大きなテーマである。高齢者医療の最前線にある当地域では、高齢化率が40%を超え、外来患者の約7割、入院患者の約8割は75歳以上の後期高齢者である。
日々多くの高齢者を診療する中で、以下のような課題を感じている。①単身高齢者、高齢夫婦世帯の増加、②多疾患併存患者の増加、③医療・介護・福祉の複数ニーズを併せ持つ患者の増加、④慢性疾患急性増悪による救急搬送患者の増加、⑤看取り患者の増加、⑥認知症患者の増加、である。
高齢化が進む地域では、自宅から入院して治療を行って退院が可能な状況になっても介護力等の問題で自宅へ帰ることができず施設に入所する高齢患者が多く、入院時から退院先の検討が必要であり、医療ソーシャルワーカーを中心とした多職種入退院支援チームの役割が重要である。また、1つだけでなく幅広く多くの領域に対応可能で、介護や福祉に関する医療以外の知識を有し、多職種と円滑に連携をとることができる総合診療医の活躍が期待される。
さらには、日常診療の中で、高齢者の慢性疾患を適切に管理できる「かかりつけ医機能」の強化と高齢者救急患者を受け入れた後に、状態が安定すれば早期に地域の医療機関へ転院する仕組み(いわゆる下り搬送)を含めた救急医療提供体制の構築が喫緊の課題である。加えて、在宅医療を推進するためにも自宅や施設での看取り対応や、増加する認知症高齢者が住み慣れた地域で、その人らしく生活することを支えるために地域包括医療センターとの連携が重要である。
高齢化が先行して進む地域での高齢者医療の課題と対応を述べたが、これらの問題は今後、高齢化が進む地方都市や大都市で対応が迫られることと思われる。国では2040年を見据え、「新たな地域医療構想」「かかりつけ医機能報告制度」などの議論を進めているが、今後は「役割分担と連携」がキーワードになるのではないかと考える。
医療と介護、急性期と慢性期、病院とかかりつけ医、領域別専門医と総合診療医、それぞれが役割と立ち位置を明確にして、実効性のある連携体制を構築することが、今後さらに進む高齢化社会における地域医療にとって必要なことではないかと考えている。2025年以降、これまで以上に「治し、支え、寄り添う医療」のマインドを持って、地域における高齢者医療を担っていきたい。
小野 剛(市立大森病院院長、一般社団法人日本地域医療学会理事長)[高齢者医療][治し、支え、寄り添う医療]