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【識者の眼】「新型コロナウイルス感染症:抗体検査を一刻も早く確立せよ!」浅香正博

No.5009 (2020年04月25日発行) P.58

浅香正博 (北海道医療大学学長)

登録日: 2020-04-13

最終更新日: 2020-04-13

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4月7日、日本政府は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対して緊急事態宣言を発した。しかしながら感染者数はその後も東京を中心に急激に増え続けてきている。COVID-19のような治療薬のない未知の感染症と闘うのに最も重要なことは診断法の確立である。現在、わが国でCOVID-19に対して用いられている診断法はPCR法のみである。PCR法はウイルスの遺伝子を増幅して測定するもので高い感度を有しているが、鼻咽頭粘膜など検体採取部にウイルスが存在しない場合、感度をいくら上げても陰性と出る可能性がある。したがってCOVID-19の診断法がPCR法のみというのは現場の医師にとっては相当心許ないと思われる。

最近、世界中で注目を浴びつつあるのが抗体測定法である。新型コロナウイルス感染が生じると感染者の体内でウイルスに対する抗体ができてくるのでかなり有力な診断法となる可能性がある。感染後、数日でIgM抗体を生じ、かなりの時間が経ってから中和抗体であるIgGが生成され、感染は終結に向かう。したがって新型コロナウイルスに対するIgM抗体を測定することにより、感染が現在生じているのかどうかが明らかとなり、IgG抗体が陽性であれば、すでに感染を克服している可能性が高いことがわかる。

このようにCOVID-19の診断にとってその病期までわかる抗体検査は有用で必須なものと考えられるが、最大の問題点はその精度である。IgM抗体測定で診断できる最も有名な疾患はA型ウイルス肝炎である。その臨床的意義は十分に確立されており教科書にも記載されている。しかし、COVID-19の場合はIgM抗体測定の意義がまだ十分に解明されていない。測定キットは中国や米国などから提供されているが、抗体測定の有用性に関する評価可能な論文はまだ報告されていない。それ故、一刻も早く新型コロナウイルスに対する抗体測定の臨床的意義についてわが国をあげて確立してほしいと願っている。特に感染診断におけるIgM抗体とPCR検査との相関性については早急に検討願いたい。これはCOVID-19対策に従事する医師へのきわめて強力で重要な武器になる可能性が高い。抗体検査は血液採取により短時間で結果が得られることより、一挙に数万、数十万件の処理が可能になる。COVID-19に対する有効な治療法とワクチンのない現状では、診断法の確立によってCOVID-19への対策の幅が明らかに広がっていく。英国、米国でもすでに検討が始まっているが、感染爆発や医療崩壊に結びつけないためにも、わが国での検討を期限を決めて大急ぎで行うべきと考える。

浅香正博(北海道医療大学学長)[新型コロナウイルス感染症]

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