株式会社日本医事新報社 株式会社日本医事新報社

CLOSE

「骨太方針2020」の社会保障・医療改革方針をどう読むか?[深層を読む・真相を解く(100)]

No.5023 (2020年08月01日発行) P.54

二木 立 (日本福祉大学名誉教授)

登録日: 2020-07-21

最終更新日: 2020-07-21

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

安倍晋三内閣は7月17日、「経済財政運営と改革の基本方針2020~危機の克服、そして新しい未来へ~」(以下、「骨太方針2020」)を閣議決定しました。本稿では、その全体像を簡単に示した上で、それに含まれる社会保障・医療改革方針を、昨年(以前)の「骨太方針」との異同を中心に検討します。

「新たな日常」の定義は示されていない

「骨太方針2020」全体のキーワードは、コロナ後の「新たな日常」の実現とそれを支えるための「デジタル化の推進」です。「新たな日常」は目次だけで9回も用いられ、本文でも約30回使われ、そのすべてが「 」付きで強調されています。

ただし、この新語の説明・定義はどこにも書かれていません。私は、当初「新たな日常」は、新型コロナウイルス感染症対策専門家会議が5月4日の「提言」で用いた、「新しい生活様式」と同じと思ったのですが、「骨太方針2020」ではそれよりはるかに広い意味でも用いられています(例:「新しい未来における経済社会の姿の基本的方向性」3頁)。

安倍首相がこの言葉を最初に用いたのは、5月4日の記者会見時で、このときは「三つの密を生活のあらゆる場面で、できる限り避けていく」と、専門家会議の「新しい生活様式」と同じ意味で用いました。しかし、5月14日の記者会見では、「コロナの時代の新たな日常を取り戻していく」等、より広い意味でも用いるようになり、「骨太方針2020」ではその意味がさらに拡散しました。

この用語の定義は西村康稔経済再生担当相の7月14日記者会見でも質問され、大臣は、それには「広い意味と狭い意味」があり、「広い意味で言えば、社会全体で社会構造、経済構造全体を考えていけば(以下略)」と、しどろもどろの説明をしました。

「新たな日常」が「骨太方針2020」の「マジック・ワード(呪文)」になっていることは、どの分野の改革でも明確な理念を持たず、政権を維持するために、新しい人目を引く新語を次々と作っては、使い捨てていく安倍内閣の特徴をよく示しています。

「新たな日常」の早期実現の柱は5つで、第1の柱が「デジタル化」とされ、特に「デジタル・ガバメントの構築」が「一丁目一番地の最優先政策課題」とされています(5頁)。ただし、「骨太方針2020」は、「骨太方針2019」でも「行政サービスの100%デジタル化を目指す」(53頁)と明記していたこと、遡れば、2001年の政府決定「e-Japan戦略」(森喜朗内閣)も「我が国が5年以内に世界最先端のIT国家となることを目指す」と宣言していたことには触れていません。過去の政策の総括・反省を一切しないことは、安倍内閣のもう一つの特徴と言えます。

プレミアム会員向けコンテンツです(期間限定で無料会員も閲覧可)
→ログインした状態で続きを読む

関連記事・論文

もっと見る

関連書籍

関連物件情報

もっと見る

page top