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特集:医師法第19条─医師の応招義務

No.5025 (2020年08月15日発行) P.18

三谷和歌子 (田辺総合法律事務所)

登録日: 2020-08-14

最終更新日: 2020-08-11

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弁護士。
1998年東京大学法学部卒業。2000年弁護士登録。『病院・診療所経営の法律相談』編集代表他、医療に関する著書・講演多数。

1 応招義務に関する新通知発出
・令和元(2019)年12月25日,応招義務に関する新通知が発出された

2 応招義務とは
・「診療に従事する医師は,診察治療の求があつた場合には,正当な事由がなければ,これを拒んではならない」(医師法第19条第1項)。これが応招義務である
・応招義務違反に対する刑罰規定はなく,行政処分の可能性はあるが,実例はない
・患者からの損害賠償請求訴訟において,診療拒否の違法性が争われてきた

3 応招義務をめぐるこれまでの議論
・旧厚生省からの通知は,今回の新通知までに昭和24(1949)年・昭和30(1955)年・昭和49(1974)年の計3回発出されてきた。しかし,3つの通知の関係性や,診療を拒否できる「正当な事由」に関する議論は深まらなかった
・今まで患者に対する診療拒否について,裁判で争われてきた。かつての主な対象は救急患者で,近年は迷惑患者が目立つ
・そのほか,診療費を支払わない患者への対応が,実務上の問題としてとらえられてきた。また,プライベートの時間における飛行機や電車内でのドクター・コールへの対応義務も問題として認識されていた

4 新通知のポイント
(1)緊急対応が必要な場合
・診療時間内・勤務時間内については,事実上診療が不可能と言える場合にのみ診療しないことが正当化される
・診療時間外・勤務時間外については,診療しなくても原則公法上・私法上の責任は問われないが,対応することが望まれる場合がある

(2)緊急対応が不要な場合
・診療時間内・勤務時間内については,原則として必要な医療を提供する義務がある。ただし,緊急対応が必要な場合に比べて緩やかに解釈される
・そのうえで,診療拒否の正当性について,具体的な事例を念頭に整理された

5 新通知をふまえた実務対応
(1)重篤な病状の患者が来院した場合
・事実上不可能でない限り診療しなければならない

(2)病院スタッフの指示に従わず,他の患者の迷惑になる場合
・迷惑行為の程度がひどく,何度注意しても改まらず,他の患者や医療者の迷惑になり通常の診療業務に支障が出るような場合は,診療をしなくてもよい

(3)医療費を支払わない患者
・医療費を支払えるのに支払わない患者は断っても正当化される場合がある

(4)外国人対応
・外国人であることを理由の診療拒否は認められない。ただ,言葉や文化の違いにより診療行為が著しく困難であるとき,診療を拒否できる場合がある

(5)フライト中のドクター・コール
・名乗り出る義務はないとされたが,可能な範囲での対応が望ましい

6 診療拒否にあたっての注意点
・新通知により,応招義務の範囲が一定程度明確化された。しかし,安易な診療拒否は許されない
・病院全体でその判断を共有するとともに,診療拒否に至った経緯等について,カルテ等に詳細な記録を残しておくことが肝要である

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