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【識者の眼】「『鬼滅の刃』と『天気の子』を比べて感じたこと」堀 有伸

No.5040 (2020年11月28日発行) P.59

堀 有伸 (ほりメンタルクリニック院長)

登録日: 2020-11-11

最終更新日: 2020-11-11

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「鬼滅の刃」というマンガ・アニメが非常に人気で、このコロナ禍においても多数の人が劇場に足を運んで映画版を鑑賞していると伝えられています。私もこの作品のファンなのですが、やはり日本人は「みんなが死力を尽くして協力して強敵に立ち向かう」物語が好きなのではないか、とその人気の秘密について考えておりました。主人公は勤勉・勇敢・努力・まじめといった近代日本が愛した特性を持っている人物です。その主人公が残酷な事情によって否応なく物語に巻き込まれ、年配の指導者や年の近い仲間と切磋琢磨しながら成長しますが、直面する敵たちも強力で、主人公と仲間たちは過酷な運命に見舞われます。

この作品が好調であることの背景には、危機的な状況にある日本人が反動的に保守的な心性を強めていることも影響していると考えました。危機において団結しようとするのは日本人の美徳ですが、この作品においても「自分と周囲の命を集団の目的達成のためには非常に軽く扱う」悪弊がくり返されていることを、個人的には残念に思っています。敵の首領にダメージを与えるために、登場人物の一人が家族を巻き込んで爆発を仕掛けるシーンがあったのですが、この価値観には異議を申し立てたいと思います。

2019年に公開され好評を博した「天気の子」という作品が対照的な内容だったのを思い出しました。ここでは女性主人公が人柱となることで、東京が水没してしまうことから救われる道筋が示されます。しかし、男性主人公と二人は、その道筋に従うことを拒否し、物語の終わりの方では、水没した東京で二人が日常を送っている姿が描かれます。

個人的には、どちらも極端で、何とか中庸な道を探せないものか、と考えています。明日を考えない消耗戦に参入してボロボロになるまで働き続けるのでもなく、大惨事に見舞われている社会と距離を置きすぎるのでもない、その中間の、自然な個人と社会のかかわり方が見えにくくなっていることが、私たちが直面している困難の一つの側面なのかもしれません。

堀 有伸(ほりメンタルクリニック院長)[個人と社会のかかわり方]

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