〔要旨〕現在の医学教育カリキュラムには,キャリアデザインや生涯学習を扱ったプログラムが不足しており,系統的キャリアデザイン教育の必要性が高まっている。現在のZ世代と言われる医学生はデジタル技術に精通しており,従来の教育方法では対応が難しい。我々は,医学生のキャリア意識を向上させるために現在の学修者特性に合わせた「キャリアデザインシミュレーション」を含む系統的カリキュラムを試行している。初年次から診療参加型臨床実習への系統的なキャリアデザイン教育は,生涯学習に連結できる可能性がある。
医学生以外の学部生は,最終年度やその前年度から就職活動や修士課程進学など,将来のキャリアを本格的にデザインすることが多い。一方で,医学部の高学年生は臨床研修病院の選択に強い関心を持っているが,その後の専門研修や博士号取得など,医師としてのキャリアデザインに対する意識は比較的低い可能性がある1)。医学生は卒業後,ほとんどが研修病院で「臨床研修医」として医師のキャリアを開始する。最終学年の医学生は,「医師臨床研修マッチング」システムを通じて,複数の臨床研修病院で面接や試験を受ける。同時に卒業試験や医師国家試験の準備があるため,医学生の負担は非常に大きい2)。
また,日本の医療界では,研究発信力低下が問題となっており,その一因として,医学博士号取得への意識低下が挙げられている。令和4年度版医学教育モデル・コア・カリキュラムでも研究能力の開発が示唆されており3),大学院での研究や医学博士号の意義について,医学生が十分に理解していない可能性がある。これらの背景から,現在の医学生における専門医資格取得や医学博士号取得などを含めたキャリア形成に対する意識は,十分ではないと言える。
令和4年度版医学教育モデル・コア・カリキュラムでは,医師に求められる基本的な資質・能力のひとつとして,「生涯にわたって自律的に学び続け,積極的に教育に取り組む」という生涯学習姿勢が重視されている。そして,生涯学習の一環としてキャリア開発が推奨されている。これは,変化し続ける医療環境の中で,「自己研鑽を重ね,自らのキャリアを見つめ直す」ことの重要性を裏付けている。現行の医学教育カリキュラムには,生涯教育やキャリアデザインを扱ったプログラムが少なく,より体系的なカリキュラムの整備が求められている。
日本専門医機構が導入した専門研修プログラムの多様化により,大学医局に所属しなくても専門医資格を取得できるようになったことは,若手医師にとってキャリア選択肢の幅を広げる結果となっている。しかし,臨床研修医から専門研修への移行に重点が置かれる一方で,大学院進学や医学博士号取得に対する関心が低下している可能性がある4)。このような危機的状況下においては,専門医資格取得や医学博士号取得などについて卒業前から継続的に考察し,「キャリアを見据え,変化に対応できるスキルを磨く」ことが重要である。小括すると,現在の医学生に対し,データ駆動型社会に突入している医療を含む社会全体の構造変化に合わせたキャリアデザインに関するコンピテンシーを涵養する必要がある5)。