株式会社日本医事新報社 株式会社日本医事新報社

CLOSE

“狐に化かされた?”:夢か現か幻か[炉辺閑話]

No.5045 (2021年01月02日発行) P.9

杉山温人 (国立国際医療研究センター病院病院長)

登録日: 2021-01-01

最終更新日: 2020-12-21

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

執筆時点で最もホットな話題であるコロナの話ではありません。若かりし頃に経験した不思議な話です。

今から37年も前のことです。当時、北茨城の中核病院に赴任していた私のところへ、東京から彼女(今のワイフです)が遊びにきたので、観光名所として有名な袋田の滝を見に行くことにしました。勇壮な滝の姿に大いに感動し、美味なる蕎麦を堪能して帰途につきました。季節は秋の終わりに近く早々に日が暮れてしまい、私たちは慣れない山道にすっかり迷ってしまいました。今と違って、GPSもなければナビもない時代であり、地図だけが頼みの綱でした。車の中ではカセットから松田聖子ちゃんの可憐な声が流れていたのをよく覚えています。

1時間近く山道を彷徨っていたところ、前方の山の中に忽然と明るい灯が見えました。これ幸いとばかりに車を止め、家人に帰り道を聞いたところ、右手の道を進み道路標識に従って行けば、程なく街道に出られると親切に教えてくれました。丁重に礼を言い、指示された通りに車を進めましたが、1時間以上経っても街道に出られません。気がつけば、どうやら同じ道を何度もぐるぐると回っていたのです。これはおかしい、と気づいて車を止め、2人して地図をのぞき込んでいた時、前方に青く光る小さな2つの灯を見つけました。目を凝らしてみると、狐が私たちを振り返って見ているではありませんか。「狐に化かされた!」、瞬間的に私はそう思い、全身に戦慄が走ったのを覚えています。このまま山中に取り残されて夜を明かさねばならないのかと半ば諦めかけていたその時、幸いにも間道から車が出てきました。この機会を逃してはいけないと、慌ててその車についていったところ、間もなく国道に出られました。

あの山中の家は狐のお宿だったのでしょうか? それとも単に私たちの思い過ごしだったのでしょうか? その後、怖くて袋田の滝を訪れられないままでいますが、そろそろ行って見ようかと考えています。助手席にはワイフを乗せ、Wi-Fiで聖子ちゃんを流し、もちろんナビの誘導付きですが。

関連記事・論文

もっと見る

関連書籍

関連求人情報

もっと見る

関連物件情報

もっと見る

page top