株式会社日本医事新報社 株式会社日本医事新報社

CLOSE

特集:プライマリ・ケア医が知っておきたい患者への経済的支援策

No.5059 (2021年04月10日発行) P.18

舟越光彦 (公益社団法人福岡医療団理事長/千鳥橋病院予防医学科長/日本HPHネットワーク・日本コーディネーター)

登録日: 2021-04-09

最終更新日: 2021-04-07

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

●1987年熊本大学医学部卒業後,千鳥橋病院に入職。現在,福岡医療団理事長,千鳥橋病院予防医学科長,日本HPHネットワーク・日本コーディネーター。拡大する健康格差の解消のために,医療現場での患者支援の実践と普及に努める。

1 経済的支援をする必要性~健康の社会的決定要因とは
・疾病の危険因子として,健康の社会的決定要因(SDH)が注目を集めている。
・世界保健機関(WHO)によると,主要なSDHは「社会格差,ストレス,幼少期,社会的排除,労働,失業,社会的支援,薬物依存,食品,交通」の10項目である。
・日本の相対的貧困率は世界的にみても高いので,日本においてもSDHに対する介入に医師も関与することが求められる。

2 経済的な支援の枠組みとカナダの経済的支援ツール
(1)経済的支援の枠組み
・患者に対する経済的な支援のアプローチの枠組みは,ミクロレベル,メゾレベル,マクロレベルに分けられる。
・ミクロレベルは,診察室レベルで行う支援で,本稿で紹介するのもこのレベルの支援内容である。医師個人が診察室で社会資源の利用を助言することや,チームで患者の経済的支援をするものである。
・メゾレベルは地域での支援で,マクロレベルは社会政策レベルの介入である。
(2)経済的支援をするときに生じる問題
・医師にとってSDHに対する介入は経験が少ないこと,多忙な診療の中で時間を割くことが困難であること等が問題となる。
(3)カナダの経済的支援ツール
・こうした問題の解決のため,医師会を挙げてSDHに熱心に取り組んでいるカナダで開発された経済的支援ツールが参考になる。
・このツールは,3ステップで構成されたコンパクトなものである。
・ステップ1で「経済状態に関する問診」を行い,ステップ2で「貧困と疾病に関するエビデンスの説明」を行い,最後に,ステップ3で「社会資源の処方」を行う

3 日本版の経済的支援ツールと事例集
(1)日本版の経済的支援ツールの構成
・日本HPHネットワーク(Japan Network of Health Promoting Hospitals and Services)が,カナダ版と同じ3ステップの構成で日本版のツールとして作成したのが「医療・介護スタッフのための経済的支援ツール」(以下,経済的支援ツール)である。
(2)ステップ1
・5つの項目から使用しやすい項目を選んで質問する。
・問診の際には,患者が安心して答えられる環境を作り,場合によっては何度かの受診で患者との関係性を構築して情報を集めることも考慮する。
(3)ステップ2
・貧困が病気の原因であるエビデンスを説明する。
(4)ステップ3
・診療場面で利用価値の高い社会資源を整理したリストを活用して,社会資源を処方する。
(5)症例事例集
・学習用として「経済的支援ツールの症例事例集」を作成。
・事例と解答で構成され,13の事例の演習を通して「経済的支援ツール」で紹介した社会保障制度を学習できる。
(6)「経済的支援ツール」と「症例事例集」の入手方法
日本HPHのホームページから無料で入手できる。

4 コロナ禍の支援
・コロナ禍で失業,閉業などにより困窮に陥る人が急増している。
・公的な支援制度は不十分ではあるが,コロナ関連の制度の活用で患者への経済的支援をすることが求められる。

プレミアム会員向けコンテンツです(最新の記事のみ無料会員も閲覧可)
→ログインした状態で続きを読む

関連記事・論文

もっと見る

関連書籍

関連物件情報

もっと見る

page top