わが国では、2019年に約138万人が死亡しましたが、今後死者数が増加すると予測されます。死亡場所では、病院が72.9%、自宅が13.6%、老人ホームなどが12.0%ですが、病院での死亡を減らし、自宅で安らかに最期を迎える在宅看取りが推進されています。その結果、近年では自宅や老人ホームといった医療機関以外での死亡が微増しています。
終末期の療養場所について調査したところ、10.9%の人が自宅で最期まで療養したいと答えており、52.4%の人が自宅で療養して必要になれば医療機関や緩和ケア病棟に入院したいと答えていました。このように、多くの国民が自宅での療養を望んでいます。すなわち、慣れ親しんだ場所で終末期を過ごしたいと考えています。
一方で、66.2%の人が、最期まで自宅で療養することは困難と考えており、その理由として半数以上の人が、「介護してくれる家族に負担がかかる」、「症状が急変したときの対応に不安がある」ことを挙げていました。したがって、このような不安を払拭して、患者さんが自宅で安らかな最期を迎えられるような配慮が求められています。
近年、高齢者の単独世帯数が増加しており、2019年には約737万世帯となりました。体調が悪くなっても相談する相手がおらず、そのまま死亡する人がいます。これらの状態は孤独死と言われますが、これでは看取りが実現しません。共に暮らすご家族や親しい方に看取られるためには、孤立している人をなくし、何かとつながるようにする必要があります。高齢者が誰かとつながっていることは、看取りの実現に向けた必須条件です。
次に、終末期にどのような医療やケアを望むかについて、患者さんやご家族と話し合われているということも必要です。自宅で安らかな最期を迎えたいという患者さん本人の意思を予め確認し、それを家族や医療スタッフ間で事前に共有していなければなりません。
そして、ご家族も勇気をもって患者さんを最期まで見守らなければなりません。何も食べられなくなり、意識が朦朧とすることや、顎をあげながら呼吸する姿を目の当たりにします。患者さんの状態を見かねて救急車を呼んでしまったら、医療機関に搬送されますので、在宅看取りは実現しません。多くの人は最期を看取る経験がありませんので、患者さんの状態をみて驚いたり不安になることがあります。
以上のように、在宅看取りを実現するためには関係者の理解と周到な準備が必要です。したがって、看取りを実現させることは容易なことではありません。
私たちは、地域における在宅看取りが円滑に実現できるように、関係者の皆様と協力して啓発活動を行っています。医療従事者やご家族が看取り期に必要とする情報をまとめたパンフレットを作成し、関係部署に配布しました。このようなパンフレットを利用することで、ご家族は最期が迫った患者さんの状態を慌てずに見守ることができ、また、いざというときにすみやかに医療スタッフに連絡することができます。
難しい在宅看取りを実現するには、多くの皆様の力が必要です。