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【識者の眼】「集団接種と個別接種、医師も患者も悩んでいる」草場鉄周

No.5067 (2021年06月05日発行) P.59

草場鉄周 (日本プライマリ・ケア連合学会理事長、医療法人北海道家庭医療学センター理事長)

登録日: 2021-05-19

最終更新日: 2021-05-31

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筆者が診療する北海道・室蘭でも高齢者向けのコロナワクチン接種がスタートしようとしている。週末には地域の医療機関から医師・看護師が出向いて大会場で効率良く接種するシステムを準備し、それ以外に、かかりつけ医のもとで接種を希望する患者向けには医療機関での個別接種の体制も準備している。一見、患者の希望でどちらも選べるという理想的な仕組みに思えるが、どちらを選ぶべきかと患者や家族と対話する際にはストレスが大きい。

様々な疾患を合併する高齢者のワクチンへの不安は根強く、普段から身体の状態を把握している主治医による予防接種を希望する方は想像以上に多かった。しかし、どれくらいの方が診療所での予防接種を希望するかを予想することは難しく、通常診療と並行して大量のワクチン接種を行う体制の整備も簡単ではない。そのため、自治体が設置する集団接種会場の方が早めに打てる可能性が高い。長年の信頼による安心の接種を取るか、スピーディーな接種を取るか、患者も悩むし、医師も悩んでいる。

もし、英国のようにかかりつけ医の登録制度が整備されていれば、行政も住民に直接ワクチン情報を届けて予約させるのではなく、まず登録しているかかりつけ医を経由して住民のワクチン接種の意向を把握し、個別接種と集団接種の必要数を割り出すことが可能となる。そして、かかりつけ医向けのワクチン数、集団接種のワクチン数を容易にはじき出すことができる。

以前からの課題だが、日本でも診療所が行政・保健所ともっと密接に連携して予防医療や公衆衛生領域の業務を担うことが今後は求められるだろう。そのためにも、かかりつけ医の登録制度は真剣に検討すべき課題となってきたと、このワクチンを巡る混乱を目の前にして痛感している。

草場鉄周(日本プライマリ・ケア連合学会理事長、医療法人北海道家庭医療学センター理事長)[総合診療/家庭医療]

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