No.5069 (2021年06月19日発行) P.62
石﨑優子 (関西医科大学小児科学講座准教授)
登録日: 2021-05-26
最終更新日: 2021-05-26
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)拡大による休校、自粛生活が始まって以降、小児科臨床で摂食障害、特に神経性無食欲症の患者が急増している。典型的な神経性無食欲症患者は、体重が増えることへの恐怖と、痩せているのにも関わらず自分が太っていると思い込むボディイメージの歪みを持つ。そして減食や、過度の運動により、生命を脅かすところまで体重を減らし続ける。背後に親子関係や学業、学校での友人関係に問題がある、太っていると言われた、アスリートが始めたダイエットが過度になった、といった例が多い。このような背景を考えると、自粛生活と休校以降、神経性無食欲症患者が急増するのはうなづけるであろう。学校に行けず、動けないから太ってしまうと思い込み、減食してしまうが、成長し続ける身体を維持するのにも、脳が働くのにも栄養が必要という発想は抜け落ちている。
元来、神経性無食欲症は欧米先進国に多い疾患であり、海外からも続々と増加が報告されている。タイトルに“アウトブレイク”と銘打った論文では、COVID-19のパンデミック以降、オーストラリアで入院を必要とする神経性無食欲症の子どもの増加を報告している(Haripersad YV,et al:Arch Dis Child.2021;106(3):e15)。そして社会的孤立と学校閉鎖により、課外活動、学校での日常生活、仲間との関係といった普段なら気晴らしとなり、子どもを摂食障害への没入から守ってくれる要因が減少したと述べている。わが国でも同様であり、COVID-19による休校はやむを得ない場合の短期間に限る必要があろう。
この論文の著者はまた、New normalへの移行という新たな課題を投げかけている。パンデミックの後に続くのはNew normalの時代であり、COVID-19以前への復帰ではない。新しい生活様式に向けて、摂食障害の子どもに対するサポート戦略の確立が急がれる。
石﨑優子(関西医科大学小児科学講座准教授)[新型コロナウイルス感染症][摂食障害]