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【識者の眼】「ワクチン敗戦に思う」邉見公雄

No.5069 (2021年06月19日発行) P.64

邉見公雄 (全国公私病院連盟会長)

登録日: 2021-05-28

最終更新日: 2021-05-28

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私が大学で研究していた頃、日本は「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と言われ、今の中国の様に米国から警戒される時代であった。経済は一流、教育・研究は一流半か二流、政治は三流とも揶揄されていた。現在の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックの中で、ワクチンの接種率は先進国最下位。接種の予約申し込みのドタバタ劇はデジタル後進国そのものである。経済もGAFAや中国資本に水をあけられ、全て三流の感じがする。

ワクチンに関しては、健康な方が不幸な症状や後遺症に襲われるのは不条理であり、当事者にとっては耐えられないのは当然である。しかしオール・オア・ナッシング、100%神話的な考えが我が国には多すぎると長年医者をやってきて感じている。それが製薬業界や研究者にも反映し、ワクチン研究の進まない遠因にもなっているように感じている。米国・中国・英国などは、戦略的なものとして研究費をつぎ込んでいる。国産ワクチンが出来る頃には外国製に席捲され、臨床試験に参加する人にも困り、益々遅れる可能性もある。私が中医協薬価専門部会委員の時(2009年)に、新薬創出加算という制度が難産の末に成立した。しかしこれも上手く機能していないようで、研究・開発力の劣る国内メーカーにあまりメリットがなく、外資系に益する皮肉な現状を嘆いている方は多い。

ワクチンに限らず、国内生産や備蓄が少なくて困った例はつい最近もあった。セファゾリンという抗生物質が一昨年不足し、手術を控えたりした事件である。中国やイタリアの工場などの事故による製造中止が原因であった。私どものNPO法人地域医療・介護研究会JAPANでは、この問題をテーマに国会議員の先生をシンポジストとしてお招きし、これを国会で質問していただこうとしていた矢先、今回のコロナが起きたのである。マスクやガウン、グラブなどのPPEやアルコール、人工呼吸器も足らなかった。自給率の低い食糧も含めて、キードラックは国内製造、備蓄を進めるべきである。そのためには、現在の薬価制度を抜本的に見直し、メーカーのモチベーションを上げる必要がある。これは一種の安全保障の費用と考えるべきであろう。

国は、医療費抑制策でジェネリックに力を入れすぎ新薬メーカーを軽視しすぎた。また、今回の日医工や小林化工の事件から「安かろう、悪かろう」の風潮が広まり、薬業界全体の信頼が揺らいでいるのも大問題である。国民の生命や健康は財政より重要と考える。

邉見公雄(全国公私病院連盟会長)[安全保障]

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