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【識者の眼】「K字型からコロナ後の病院のあり方を問う」神野正博

No.5079 (2021年08月28日発行) P.58

神野正博 (社会医療法人財団董仙会恵寿総合病院理事長)

登録日: 2021-08-02

最終更新日: 2021-08-02

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世界がコロナ禍の真っ最中の今年に入ってから、K字という言葉をよく見受けるようになった。恵寿のK? 神野のK? などと手前味噌の話ではなく、急回復する「V字型」、回復に時間がかかる「U字型」、低迷を抜けられない「L字型」などと言われる経済の動向としての「K字型」だ。

マスコミを含めて口に上るのは、コロナ禍の下で厳しい業界の話だ。「接待を伴う」を含めた飲食、運輸、観光・宿泊、テーマパーク、エンタメなどから悲壮な叫びが伝えられる。そこから、世の中全体の悲壮感も醸し出される。

ところが、2020年度の企業決算などの情報とともに好況業種も焙り出された。昨年度の企業所得に比例する国の法人税収も、60.8兆円と過去最高に上振れするニュースに驚いた。

そこで、「K字型」の経済だ。Kの字よろしく、上がるところ下がるところと2極化し、格差が生まれていることが鮮明となったのだ。ちなみに、前述の悲壮な業界に対して、上向き業界として情報通信、自動車・ハイテク(半導体)などの製造業、巣ごもり需要(ゲームなど)が挙げられている。

そこで、病院だ。コロナと闘う最前線を担いながら、昨年度から続く外来患者減、病床稼働率の低下、手術・検査件数の減少など、もともと赤字病院が多く構造不況業種ともいえる業界に、コロナ禍の影響は追い打ちをかけたのだ。実際、3病院団体が調査した2020年度月別の経営実態調査では、ほぼ通年を通した医業利益率の悪化が顕著だった。

しかし、最終決算の数字が出てくると一部病院の経常収支に著しい好転が認められるのだ。それは、コロナ患者受け入れ病院を中心とした前線病院における支援金の影響だ。

ここで、病院の経営においても「K字型」格差があったことが鮮明となった。コロナ患者に対してチームが一丸となって対応した、あるいは対応せざるを得なかった病院の収支が上向きとなり、一般病床を持ちながら、あるいは回復期病床を持ちながら対応しなかった、あるいは対応できなかった病院の収支が下向きとなっているのだ。加えて、入院患者や入所者の在院、在所日数のコントロールができた慢性期病床、入所施設は上向きとなったのだ。

いつまでもこの支援金という補助金漬けの状況が続くことはないと心得なければならない。一方で、病院へのかかり方などこの機に変わった患者の価値観は続くだろう。今こそ、コロナ後の自院の方向性、あり方を検討する時期なのではなかろうか。

神野正博(社会医療法人財団董仙会恵寿総合病院理事長)[病院経営]

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