No.5079 (2021年08月28日発行) P.57
本田秀夫 (信州大学医学部子どものこころの発達医学教室教授)
登録日: 2021-08-04
最終更新日: 2021-08-04
小児科と児童精神科で、新型コロナウイルス感染症流行に伴って話題になっていることの1つが、子どもの摂食障害患者の増加である。わが国のみならず世界各国でそのことが報告されている。筆者が勤務する大学病院でも小中学生の摂食障害の受診例が昨年から増加し、児童精神科の入院病床だけでは対応しきれず小児科でも多くの入院患者を抱える状況となっている。ロックダウンや学校の休校などの生活環境の変化によるストレスや、外出制限による肥満を気にしてダイエットを開始したことなどが要因ではないかと推測されているが、まだ十分にはわかっていない。
小中学生の摂食障害では、体重の著しい減少がみられる神経性やせ症や回避・制限性食物摂取症の占める割合が圧倒的に多い。低身長、初潮遅延、月経停止など身体の成熟に影響を及ぼす他、低栄養による衰弱のため突然死に至るリスクが高い。心理・行動面では、食事制限に対する過度の執着、対人関係の悪化、うつ状態、情緒不安定、強迫・こだわりなどが目立つようになる。家庭内では、食事を食べさせようとする家族との衝突が増えるため、家族のストレスも強くなる。
摂食障害は、精神疾患全体の中で最も死亡率が高い。体重減少が著しい場合、早急に入院治療を要する。リフィーディング症候群に留意しながら再栄養療法を行うのが原則であるが、神経性やせ症で太ることへの恐怖が強いケースでは再栄養療法に本人が応じようとしない場合がしばしばある。また、体重がある程度回復した後も、対人関係や情緒的な問題に対する精神医学的対応を要することが多い。このように、摂食障害では身体医学と精神医学の両面から密な治療を要するため、治療できる医療機関が限られてくる。昨年来の患者数増加によって、全国的に子どもの摂食障害患者の治療を行う入院ベッドが圧迫されていると思われる。
長野県では昨年度より、子どもの摂食障害について研修・研究と情報交換を行うための研究会を小児科医・児童精神科医で立ち上げたところである。子どもの摂食障害に関する治療ニーズの実態を、全国各地で明らかにしていく必要がある。
本田秀夫(信州大学医学部子どものこころの発達医学教室教授)[子どもの精神科医療][新型コロナウイルス感染症]