No.4751 (2015年05月16日発行) P.17
二木 立 (日本福祉大学学長)
登録日: 2016-09-08
最終更新日: 2017-02-20
財務省主計局は4月27日の財政制度等審議会財政制度分科会(分科会長=吉川洋東大院経済学研究科教授)に資料「社会保障」を提出しました。この資料(全86頁)は社会保障のほとんどすべての領域について財務省が目指す改革を、総論(「当面の社会保障制度改革の基本的考え方」)と各論に分けて網羅的に述べています。各論の中心は「医療・介護等に関する制度改革・効率化の具体案」で、しかも医療制度改革がその大半を占めています。
本稿では、急を要する問題として、財務省提案の「総論」と医療制度改革部分を複眼的に検討します。
総論の中心は、社会保障関係費の伸びの大幅抑制です。具体的には「今後5年間の社会保障関係費の伸びを、少なくとも高齢化による伸び(+2兆円強〜2.5兆円)相当の範囲内としていく必要」があるとし、そのための「社会保障制度改革の柱」を示しており、そのすべてが医療制度改革です(9頁)。
私はこの「基本的考え方」や改革メニューの多くには賛成できませんが、「総論」には注目・評価すべき点も3つあります。第1は、高齢化に伴う伸びを「やむを得ない増」と認め、それと「消費税増収分を活用した社会保障の充実等(+1.5兆円程度)」を合わせた3兆円後半〜4兆円程度の増加を予定していること、および社会保障費抑制の具体的数値目標は示していないことです。これは、小泉政権時代の社会保障費抑制の数値目標設定(毎年2200億円)とその断行が、医療危機・医療荒廃を招いたことについての「学習効果」が残っているためと思います。ただし、財政制度分科会では、委員から「高齢化による社会保障費の伸びにも切り込むべきだ」との意見も出されたとのことで、楽観はできません。
第2は、経済産業省や産業競争力会議、規制改革会議等の文書と異なり、医療・社会保障への市場原理導入提案が含まれないことです。これは各論になりますが、医療制度改革では、混合診療の拡大・解禁にも、「患者申出療養」にも全く言及していません。これは、財務省が、2013年以降、医療分野に市場原理を導入すれば、私的医療費だけでなく公的医療費も増加することを理解したためと思います。
第3は、「社会保障給付費の伸びを『少なくとも高齢化による伸び相当の範囲内』とできれば、名目3%の経済成長の実現と相まって、後代への負担のつけ回し(中略)の拡散をギリギリ防ぐことが可能となり、制度の持続可能性確保につなげることができる」と言い切っていることです(10頁)。この点は、日本の社会保障・財政崩壊が必然とする論者(その多くは医療への市場原理導入論者)との決定的違いです。ただし私は、日本の近年の潜在成長率が1%を下回っていることを考えると、「名目3%の経済成長の実現」(アベノミクスの公式目標)の達成は困難とも考えています。
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