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車の下敷きになりました[先生、ご存知ですか(45)]

No.5088 (2021年10月30日発行) P.67

一杉正仁 (滋賀医科大学社会医学講座教授)

登録日: 2021-10-27

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車の下敷きになる

以前に報道で、有名スポーツ選手が路上で寝ていたところ、発進した自動車の下敷きになったという話がありました。周囲にいた仲間達が自動車を持ち上げ、車底部から助け出しましたが、その人が負っていた損傷は擦過傷程度であったとのことです。

仕事がら、死亡ひき逃げ事件の捜査に協力することがありますが、路上に寝ているところを轢かれる人では、左右の胸郭が激しく損傷して胸腔内臓器損傷を伴っていたり、骨盤の粉砕骨折などがみられます。ですから、自動車に轢かれたときには、とても救命できないだろうと思っていました。上記の報道は、類まれな屈強な人間における例外的な話だろうと思っていました。

類まれではなかった

ある日、患者さんのことで相談を受けました。路上に倒れていたところを自動車に轢かれたとのことです。その患者さんは、頭部を打撲しましたが、その後遺症で高次脳機能障害があり、受傷時のことをよく覚えていないため、どのような状況であったか推測してほしいとのことでした。

様々な資料を拝見したところ、確かに自動車に轢かれて、頭部を車底部と路面の間で圧迫されたことが分かりました。その方は生命に影響はなく、後遺症が残りながらも日常生活を送っています。私も先入観を払拭し、車に轢かれても助かるようだと思うようになりました。

わが国では、警察庁交通局で取りまとめられている交通事故に関する公式な統計があります。令和2年は交通事故によって2839人が死亡しています(過去最低の数字です)が、状態別では歩行者の死者数が1002人と最も多いのが特徴です。先進諸外国の中でも日本は歩行者の占める割合が高いことが特徴で、その背景には高齢化が関与していると言われています。

2012年から交通事故統計の事故類型「人対車両」の中に「路上横臥」という類型が新たに追加されました。したがって、道路に横たわった状態(路上横臥)で車両に轢過あるいは衝突される人がどれくらいいるのかということが分かります。私はその詳細を分析してみました。

2012~16年の5年間に日本で発生した交通事故のうち、車両が人に衝突した事故は28万7107件であり、死傷者数は28万6383人、死亡者数は7256人でした。うち、路上横臥による死傷者数は1827人で、すべての人対車両事故負傷者の0.6%、死亡者数は602人で、すべての人対車両事故死者の8.3%でした。自動車事故で死亡した歩行者の1割弱が路上横臥という事実に驚きました。決して稀ではないのです。

1/3の確率

次に、路上に横臥していた死傷者について調べると、65歳以上の高齢者が27.0%でした。先にご紹介した、令和2年に死亡した歩行者のうち、65歳以上は56.2%を占めていました。したがって、比較的若い世代の人が路上に横たわっていて轢かれるようです。さらに、死傷者を死亡、重傷(全治1カ月以上)、軽傷(全治1カ月未満)に大別しました。すると、死亡が 33.0%、重傷が30.8%、軽傷が36.2%でした。なんと、路上横臥中に自動車事故にあっても亡くなる確率は1/3ということです。

先生方の外来にも、「車の下敷きになりました」という主訴の方が来られるかもしれません。

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