29歳男性のHさんはIgA腎症に対するステロイドパルス治療で入院中だった。IgA腎症は急性咽頭炎で血尿が悪化する特徴があり、「風邪をひいたあとに血尿が強くなるなら、咽頭に何かその原因があるのではないか?」との思いがあり、毎日の回診の際に口腔内を注視するようにしていた。
そんなある日、Hさんの口蓋扁桃にボールペンの先端くらいのサイズの白い点が付着しているのを見つけた。最初は食物のカスかな、と思っていたが、毎日同じところに付着していたため膿栓であることを疑った。当時、私の勤務していた仙台社会保険病院(現JCHO仙台病院)には耳鼻咽喉科が無かったため、自院から1kmほど離れた東北労災病院耳鼻咽喉科に診療をお願いした。すると、「慢性扁桃炎なので扁桃を摘出しましょう。」という返事がかえってきた。
この症例が扁摘パルス第1号となった。1988年のことである。当時の扁摘は局所麻酔の日帰り手術で、左右の口蓋扁桃を1週間の間隔で片方ずつ摘出し、摘出後はその日のうちに自院に戻ったため、幸いなことに扁摘直後から患者の状態を詳細に観察することができた。扁摘の都度、手術翌日に血尿が著明に悪化することが判明したので、扁摘に伴う一過性の菌血症により糸球体血管炎が一時的に悪化した現象ではないか、と推察した。そして、これが IgA腎症の根本原因ではないかと考えた。
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