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【識者の眼】「抗認知症薬の漫然投与は禁止されている」上田 諭

No.5116 (2022年05月14日発行) P.58

上田 諭 (東京さつきホスピタル)

登録日: 2022-05-02

最終更新日: 2022-05-02

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アルツハイマー型認知症(アルツハイマー病)に対して、抗認知症薬は広く用いられているが、処方する医師が常に認識しておかなければならないことがある。それは、効果が認められないときには投薬を中止すべきであると、薬剤添付文書に明記されていることである。

この場合の「効果」とは、認知症症状の進行抑制効果である。つまり、認知機能が現状維持できていれば「効果あり」ということになる。無論、この効果は期間限定の見かけ上の効果であり、認知症の病態そのものの進行は抑えられることはない(これも添付文書で明らかにされている)。

投与後、半年程度の一定期間が経過した時点で、投与前と比べて認知機能の低下がみられなければ、効果のある可能性があり継続する意味がある。一方、認知機能の低下が進行していれば、効果はないことになり、投薬は中止しなければならない。添付文書は、「重要な基本的注意」の中で、「効果が認められない場合、漫然と投与しないこと」と毅然とした表現で注意喚起している。

どんな薬であっても、医師は効果があるから投薬する。効果がないとわかった薬の投与を続ける意味はない。医学の専門家でなくてもわかる当たり前の前提である。もし、効果がないことを知りながら投薬をしていたら、医学的にも倫理的にも重大な問題になる。医学生や研修医にすら教えるまでもないそんな大前提が、わざわざ添付文書に書かれているのである。

これは裏を返せば、医師が漫然投与に陥りやすい「危険な」薬であることを示す。

認知症だからとりあえず投与しておく、効果ははっきりしないが投与を継続する、といった処方態度がもしあるとしたら、添付文書違反に問われかねない。

上田 諭(東京さつきホスピタル)[認知症医療]

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